登山者情報 1,422号

【2011年02月20日/第4回小国町雪山登山講習会/井上邦彦調査】 

 講師の一人である菅野君が仕事の都合で急に欠席となり、私に座学のお鉢が回って来た。私に与えられたタイトルは「低体温症」である。トムラウシと頼母木平における遭難を例に取りながら、低体温症を避けるための具体策について述べた。今回のキーワードは「風、濡、摂取カロリー、意識、倦怠感、正常な判断」である。またコンパスの使い方のニーズが多かったので、磁北と経度、60進法と10進法、さらに目的地の設定方法について話した。続いて岳君が、雪崩と雪質の変化について講義を行った。
 次に野外に出て、アバランチビーコンの理論を説明した。最初にサーチ(受信)モードにした状態で横一列に並んで貰い、発信しているビーコンを持った私が徐々に後退し、手にしているビーコンの反応が消えた時点で手を挙げてもらった。ばらつきはあったが、概ね15mであれば全てのビーコンが反応した。このことから、雪崩幅が30m以内であれば、一人で真中を進めば探すことが可能になることが分かった。また二人以上の捜索者がいる場合には、30m間隔で進めば、誰かが反応を見出すことも分かった。さらに、送信モードで一人ずつ私に向かって来て貰い電源の確認を行ったところ、電圧のせいか反応が鈍い物があったので、電池を交換した。
 広場の真ん中に発信状態のビーコンを置き、離れた所から私のビーコン(アナログ式)で皆と共に光や音で方向を探りながら進んだ。私のトレースにはデフ棒を立てた。デフ棒は、スタートからゴール(発信状態のビーコン)まで一直線に並んでいた。ゴールのビーコンを確認したら、スタート地点を向いて置かれてあった。
 次に発信するビーコンの横方向にスタート地点を移して、同様の捜索を行った。その結果、デフ棒は半円を描いた。この違いを体験した段階で、電波誘導法とビーコンの方向を固定し十字に移動して捜索する方法を解説した。
 部屋に戻ると、岳君を始めとするスタッフが暖かい鍋を作ってくれていた。心と体がほかほかになった所で、井上班と吉田班に分かれ、午後の講義に入った。
 私の班は、雪の下に隠したビーコンを見つけるという単純な訓練を繰り返した。殆どの参加者は目的地に集まるのに、皆と離れた所をさまよっている人が僅かに見られた。迷っているのは皆、新型のビーコンを持った初心者であった。
 訓練では倹約するため、1.4vまで使い古した乾電池を使用している。その結果、発信電波が弱くなって新型機では探しにくいのかもしれない。先日の山形県山岳遭難救助訓練で米沢の近藤さんと八幡の鈴木さんが、ビーコンの電池について異なる意見を出していた。近藤さんはPIEPS-DSPを使用していた。この機種は捜索がしやすいことから評判が良いらしいが、仕様書によると私の愛用するORTVOX-F1と比べると、送信時間、受信距離共に短い。
 もしかすると、セルフレスキューのように電波の強い場合には新型機が優れているが、チームレスキュー(数日後の捜索隊)のように電波が弱い場合は旧型機が適しているのかも知れない。これはあくまでも思い付きであり、私の新型機操作未熟による不適切な指導が原因なのかも知れない。是非実験をして確認してみたいと思う。
 ビーコンを止め、スコップで平坦なグランドを掘り下げて貰った。積雪は約1.5mである。かなり締った雪である。掘り下げるに従い、排雪が如何に重労働なのか実感していただけたようである。平坦地を深く掘るためには、離れた所から床面が斜めになるようにしないとうまくいかない。だから先端を掘り進める人と後を追うように掘り下げる人が必要なのである。
 土が出て来たので、切削面を仕上げ、代わる代わる縦に雪面を指で押し、雪層の硬さに違いがあることを体験し、弱層と思う所に印をつけて貰った。さらに地元に住む小国山岳会員から今冬の降雪を振り返って雪層について物語を話して貰った。
 周りを掘りこんで雪柱にし、脇から圧力を加えた所、表面と最下層のザラメ雪は動いたが、他はびくともしなかった。これを引き上げて、徐々に破壊したが、その丈夫さは驚くほどであった。この様子を基にして、皆でこれから発生する雪崩の性質について意見を交わしたところ、全層雪崩が多くなるという意見が多かった。
 底近くから掘った横穴に入った人を、上からプローブで刺してみた。そのまま穴の入口を塞いでみたが、身体の周りに空間があるので容易に脱出できた。そこで穴底に横たわった人にそのまま雪を掛けてみた所、雪の重さを実感できた。そのまま、掘り出す方法と搬送する講習を行った。
 小雨になってきたので、一時中断して休憩を取り、最後に弱層テストと雪洞の掘り方を体験して、予定の訓練を終えた。
 今回参加の皆さん
「低体温症とセルフレスキュー」について
ふむふむ
「雪崩の基礎知識」
町民広場に出て
アバランチビーコンの体験
この辺が怪しいぞ
雪面に近づけて確認
2人ひと組、交替教え合いながら
ちょっと休憩
何処から来たの?
午後からは本格的に練習
見つけた〜!
こちらは吉田班
雪を掘ります
ひたすら掘ります
深くなるにつれ、排雪が大変になります
雪層を指で確かめます
硬い所と柔らかい所がありました
弱層と思う所に印を付けます
この辺りかな〜
横穴を掘ってプローブを刺してみます
そのまま生き埋めにして脱出体験
今度は直接雪で埋めます
さて、自力で脱出できるかな?
手で円柱を作り、弱層テストをしてみます
雪洞の前で
今日はお疲れさまでした