登山者情報1,570号

【2012年07月31日/梶川尾根遭難/井上邦彦調査】

 16:26天狗平ロッジ管理人であるAJKから電話が入った。「現在、飯豊山荘前から電話している。梶川尾根で遭難発生、京都の6人パーティ。メンバーの体調がすぐれないので戻る途中、リーダーが全員に先に行くよう指示をした。下山して待っていても降りて来ないので、心配して登り返したら、リーダーのザックが登山道に置いてあったが本人は見当たらなかった。ザックは回収して下山し、いま警察署に連絡をしているところだ。現場はロープのある岩場の約30m上方。」とのことである。目印に石を積み上げたと言うが、場所の特定が難しいかもしれない。もう一度登ってもらうことになるだろうと話す。午前中に回収した登山者カードを探すと該当者がいた。16:31小国警察署に電話をする。
 16:37飯豊班長のNBWに連絡し、飯豊班の出動を指示する。ザックにレスキューハーネスやロープを放り込み、小国署に向かう。ここで打合せ後、一人で天狗平に向かう。17:30頃に湯沢ゲートに到着すると、飯豊班のメンバーが終結し始めた。飯豊山荘にいるメンバーと接触し、民間救助隊出動の同意を得る。湯沢ゲートに行くとAJKが大汗で降りてきた。「同行者の一人を連れてザックのあった所まで行ってきたが、藪の中でタオルとバンダナを発見した。遭難者は湯沢側に下ったようだ。」とのことである。
 ロープのある岩場から100m強登ると、NBW・KZS・本間と遭難パーティ同行者がいた(遅れてGCSが合流)。バンダナには名前があり、遭難者の物と確認。ロープをセットしてNBWが下降する。40m一杯になったので、さらに50mロープで降り、そこから左右を探すと無線で連絡があった。PWDも天狗平に到着した。下の方から探してもらうことにした。
 県警ヘリが到着する。捜索箇所を腕で合図する。こちらの意図が分ったようで、隊員が機体から身を乗り出して丁寧に探してくれている。夕暮れのタイムリミットが近づいている。ヘリからスピーカーで何か伝えようとするが、爆音で聞き取れない。やがて下方でヘリがホバーリングを始める。下ってみると、隊員が1名降りて行っている。見つけたようである。しかしその後も場所が悪いのか、何度かトライしている。藪を登って来る者がいたので、下ってみるとPWDであった。樹間から見ると、さらに隊員が降下し、まもなく人間を抱えてヘリに戻った。
 収容は終わった。下山の準備をしていると、NBW・PWDと県警航空隊員が藪から出てきた。暗くなってきたからだろうか、県警ヘリは隊員1名を現地に置き去りにして飛び去ったのだ。NBWは遭難者と接触してきたとのことで、血液が付着していた。ともあれ、捜索・収容作業は終わった。帰途、小国警察署で死亡が確認された旨を聞いて帰宅した。
 不思議なのは、ザックが置かれていた場所からタオルやバンダナが発見された場所までは傾斜が緩い藪であり、転落するような所ではない。現場に下ったNBWは、90m下降してロープを外し周辺を捜索している。遺体が発見されたのは、そこから岩がむき出しになっている所を下った所であった。故意に藪尾根を下って崖に出て転落したものと推測される。
 過去に同じ梶川尾根で熱射病により死亡した方は、ザックを放置し登山靴を脱いで裸足で下山しようとして、途中で力尽きていた。熱射病は低体温症と似ている部分が少なくないが、最大の共通点は脳の酸素が不足することである。これにより通常の判断が困難になり、予想外の行動を取るのかも知れない。 

県警ヘリが近づいて来た
何度も旋回して捜索をしているうちに、日没が迫って来た
谷間の日暮は早い
尾根を下って行くと、ヘリがホバーリングしていた
谷間でのホバーリングは技術的に難しい
岸壁に生える草が激しく揺れている
このままの状態で遭難者を吊り上げた

おわり