登山者情報1,722号

【2013年10月05日/大日杉-地蔵岳:擬似遭難/井上邦彦調査】

 朝07:27携帯電話が鳴った。「道に迷ったんですが・・・」記憶のない名前である。なかなか要領を得ないが話を聞いて行くうちに、現在は目洗い清水の標柱地点にいるらしい。標柱があるのに何故道に迷うのだろうか理解し難い。「地図は持っているの?」と尋ねると、「簡単な地図はあるけど、方角もわからないし・・・」同じ所を往復するのなら分からないということはないだろう。別な登山口から登って、大日杉口に迷い込んだというのだろうか、こちらの質問に対しての回答は相当にあやふやである。ともあれ怪我はしておらず救助要請までする気はないようだ。「私が迎えに行きますか?」「お願いします。それじゃ、ここで待っていて・・・」おいおい、私は13:00から研修会の講師業が入っているよ。道に迷っただけなら、素直に降りてきてよ。「地蔵岳の方向は分かりますか?」「ポールに矢印があり、御坪と地蔵岳が書いてあります」「地蔵岳に向かって進んでください。私は30分後に出発しても登山口まで1時間程かかりますから。それと携帯電話は電源を切って、8時30分から30分毎に電源を入れてください。ドコモですね、メールを使ったことがあるのなら、私がショートメールを入れますので、返信で連絡ができます」
 大日杉小屋に電話を掛けると、呼び出すが誰も出ない。大日杉小屋の管理人である伊藤吉郎さんの携帯に電話するが通じない。白壁さんに電話を入れ状況を話して研修会まで間に合うように行くことを伝える。確かLFDは用事があると言っていた、PWDに電話をして30分毎の呼び出しと通話を依頼する。最低限の装備と、研修会で使う用具を車に入れて出発、朝食寸前の電話なので途中のコンビニで食料を購入し食べながら車を走らせた。
  08:22岩倉最奥の人家で携帯電話が鳴った。ここから先は不通地帯となる、慌てて車を停める。伊藤さんである。今日は登山道刈り払いのため3名で登っている途中、現在地は滝切合(騙し地蔵)下の水場(地図には表記していない)とのことである。途中で下ってくる登山者と会ったら対応してくれるように頼む。これでひと息ついた。うまくいけば彼等に任せて私は研修会に行ける可能性が出てきた。
 08:43大日杉発(標高610m)、08:56ザンゲ坂(790m)、走らないよう気持ちを抑えながら登る。 09:11-14長之助清水(標高950m)で水を汲む。水場まで下り30秒、登り30秒。09:17御田(標高1,000m)通過。09:24上から大きくて灰色の動物が勢い良く駆け下りてきた。カモシカだろう、私が声を発すると「ヒュー!」と鳴いた。おそらく上でクマに会ったのではないか。
 09:30指定の時刻なので電話を掛けようとすると留守電が入っていた。聞いてみると何かごちゃごちゃと言っている後に若い男性が「登山者2人と会った、一緒に下ると言いなさい」さらに要救の声で復唱する声が聞こえた。09:54伊藤吉郎さんから「登って行った登山者のうち1名が要救のザックを持って降ってきた。もう1名が付き添って下山中とのこと」と連絡があった。09:52滝切合(1,390m)を通過し、09:58要救と合流(1,420m)要救に付き添って降ってきた伊藤さんと合流した。登山者は彼に要救を引き継ぐと登って行ったとのこと、また伊藤さんも刈り払いがあるので上に戻るとのことであった。
 以後、私は時計を気にしながら要救と2人で降ることになった。降りながら話を聞くと、一昨日夜に大日杉小屋に到着。車で仮眠を取ろうと思ったが、寝付けないので20:30頃ライトを点けて登りはじめた。昨日12:00頃飯豊山々頂に着き下山開始。地蔵岳手前で道が分からなくなった。岩陰で一晩を過ごしたが、とても寒かった。今朝登り返して筆者に電話した。昭文社の山と高原地図を持っているが車の中に忘れてきた。日本100名山が載っている本のコピーは持参している。筆者の電話番号は本山小屋の管理人から聞いた。私には理解できないことが多いが、ゆっくりと歩いている要救を刺激しないように会話をする。回答は断片的で話すことさえ疲れるようだ。
 12:30ようやく大日杉小屋に到着する。PWDから話を聞いた長井警察署員が2人待ち構えていた。研修会まで残り30分を切っている。話を聞きたがる署員を振りきり車に乗った。
 なお後日、飯豊山荘の管理人から「5日7時頃に変な電話があった。電話を受けた従業員と替わったが、何処にいるのか、どういう状況なのか分からないので、井上さんの電話番号を教えた。ご迷惑をお掛けした。4日の夜にも電話があったようだが、対応はできなかったようだ」と教えてもらった。
《登った速度》 1420-610=810m/75分、108m\10分

今回のコース
長之助清水
目洗い清水 2013年08月05日撮影
ザンゲ坂
長之助清水の分岐
色づき始めたムシカリ(オオカメノキ)
岳谷つりぼり

おわり