登山者情報1,778号

【2014年05月06日/地蔵岳:遭難/井上邦彦調査】
  05日、小国警察署から連絡があり出向く。前日、飯豊山本社ノ沢(おむろの沢)を滑降したスキーヤーが途中で遺体を発見したとの連絡があったので、本日県警ヘリがっさんで収容したとのことである。発見者が撮影した画像と県警ヘリから送られてきた画像を見せてもらう。両方共、ザックやピッケル・ストックなどはなかったとのことである。発見者が撮影した画像にはGPSデータが写し込まれており、これにより位置を特定できたとのことである。また県警ヘリの画像には雪崩が写し込まれており、発見の後、収容するまでの間に雪崩に巻き込まれたと推測された。
 問題は何故、装備が一切発見されていないかであった。遭難者は既に特定されており、その登山計画書も自宅から届いており、山スキーが目的のようであった。本人が持参していたというGPSを分析してみれば分かるだろうと見せてもらうが、残念ながらこれはビーコンだった。山装備に詳しくない署員がGPSと勘違いしていたようだ。それでも本人が持参していた地図に書き込まれていたルート図から、遭難者が相当に熟練者であることが伺えた。
 発見者からの情報によれば、地蔵岳の山頂に赤いツェルトが張られており、これが遭難者のものである可能性が高いということである。ここに装備がある可能性が高いので、回収できないかとの話である。なるほど、登山者が見える範囲に装備が放置されていれば、さまざまに支障が出てくることになる。本人のものであるかどうか、回収しても良いかのチェックは警察官が行うことが好ましいので、署員の同行が必要とのことである。大日杉から登るコースなので大日杉小屋管理人の伊藤さんに連絡し、彼の同行もお願いした。
 高造路で通行止めの標識を動かして車を乗り入れる。大日杉で合流した伊藤さんは、小屋のピロティにある登山届出所のカードを見せてくれたが、遭難者のものはなかった。快晴のもと、地蔵岳直下まで登ると、県警ヘリが飛んできて残置物を探してくれた。しかし赤いツェルトは見当たらないとのことである。念のため沢の源頭付近も上空から見てもらうよう依頼した。
 山頂に到着し、周囲を探したが、やはり残置物は見当たらなかった。双眼鏡で対岸の沢筋を観察すると、遭難者が発見された左俣に一筋のスキートレースが見えた。また右俣上部には確認できなかったが、下部には複数のトレースが確認できた。また発見されたという現場付近には雪崩の跡も見えた。一本だけあるトレースは発見者のものだと考えられるが、すると遭難者はスキーで滑っていない、つまり上部から滑落した可能性が高いと考えた。以前に天狗岳で収容した遭難者が頭を横切った。
 たまたまスキーを背負って地蔵岳に登り返してきた二人の登山者がおり、情報交換をしていると「一ノ王子の登山道脇にスキーを付けたザックがあった」と教えてくれた。おそらくそれに間違いないだろう。これから一ノ王子まで登るには時間がないので、今日は降ることにした。
 翌日、県警ヘリがこの荷物を回収してくれたが、やはり本人のものに間違いなかった。遭難者はザックを下ろして一ノ王子の陰で休憩していた時に、強風で吹き飛ばされたのかもしれない。
大日杉小屋
ザンゲ坂
見立場から大日沢源頭を仰ぐ
長之助清水は雪に埋まっていた
御田の下から雪道となる
標高を上げていく
三国岳方面
剣ヶ峰
旧水場から鍋越山方面
同じく騙し地蔵
同じく五段山方面
騙し地蔵を過ぎて地蔵岳の登り
県警ヘリがっさんが飛来してくれた
地蔵岳山頂に到着
種蒔山方面
正面がおむろの沢
右俣にはトレースがない
左俣、一ノ王子直下にトレースが見えた
遭難者が発見された付近、トレースと雪崩跡
ダイグラ尾根上部
剣ヶ峰遠望
下山途中に咲いていたイワナシ

おわり