登山者情報1,939号

【2016年02月27-28日/山形県山岳連盟登山部研修会/井上邦彦調査】
 平成27年度山形県山岳連盟登山部研修会兼冬季指導員研修会が1泊2日の日程で小国町を会場に実施された。初日は金野伸小国山岳会員を講師として「GPSとパソコンを利用した地図の作成と管理」の座学。GPSをさらに有効的に使っていこうと、参加者は四苦八苦していた。その後は、登山部所管の担当による事業報告などが行われた。
 翌日は近くの山に分けいり、前日の実習と各種ロープワークなどの技術交流を行った。

【以下は菅野登山部長からの報告】

平成27年度 山形県山岳連盟登山部研修会(兼)冬季指導員研修会実施報告
1.主  催:山形県山岳連盟 登山部 指導員会
2.協力団体:小国山岳会
3.期  日:平成28年2月27日(土)〜28日(日)
4.場  所:西置賜郡小国町 アスモ・総合スポーツ公園周辺
5.参 加 者:山岳指導員(21名)、県岳連加盟団体会員(6名) 計27名。
稲泉眞彦・佐々木義博・高橋実・阿曽清浩・池田久浩・菅野享一・齋藤昌之・高取和彦・菅埜清一・船越重幸・大滝潤二・須貝秀雄・生駒敬・阿部吉太郎・井上邦彦・齋藤弥輔・羽田義明・仁科友夫・横山利夫・渡部政信・金野伸・平田健治・平田恵子・國井英雄・横澤憲治・佐藤和典・白幡史生
6.実施内容
 例年になく暖冬で積雪が昨年の半分程度となった小国町を会場に「平成27年度山形県山岳連盟登山部研修(兼)冬季指導員研修会」が開催された。
 【一日目】13:00〜17:00
 午後1時開会、菅野登山部長からの日程説明後
 山形県山岳連盟稲泉眞彦会長から、スポーツクライミング競技も国体種目となってきており、それを踏まえ県大会も運営を考えて開催しなければならない。天童のクライミング会場の整備やボルダリング施設の整備を昨年から県へ要望しているので、山形県山岳連盟も加盟山岳団体も非常に厳しい状況にあるが、県民の為に働く、出来ることは積極的に取り組んで欲しい。来年H29年には蔵王と月山でインターハイが開催されるので、昭和47年の吾妻で開催されたインターハイに携わった方もおられるようだが、当時と違ってきているが是非ご協力をお願いしたいとの挨拶を頂きました。
 地元小国山岳会の井上邦彦会長からは、昨日らい蔵王坊平で開催された山形県遭難救助訓練での資料から「山岳遭難救助アドバイザーセンター」の発足と低体温症等の対応についての紹介がありました。また2月15日から運用開始している「山形の山岳資源魅力向上推進ネットワーク会議」について、登山情報・山岳イベント、山岳ガイド、保全維持作業・季節毎の見どころ等を一斉配信できるシステムとなっており、行政と民間が課題の共通共有出来るツールが誕生したものと喜んでいる旨の情報提供があり、充実した研修を祈念して歓迎のあいさつを頂きました。 
 13時30分より地元小国山岳会員の金野伸氏による「GPSとパソコンを利用した地図の作成と管理」について座学研修を行った。持ち寄ったパソコンへ地図作成ソフトをインストールすることから始まったが、慣れない方も多くなかなかうまく操作が出来ずパソコン初心者講座状態からのスタートとなりました。
 GPSは衛星からの電波を受信しており、山影や樹林帯等障害の多い場所では精度が悪くなる。電源を入れた直後に出発すると精度は悪いので十分余裕を持って電源を入れておくことが重要であり、必ず地図と照合し精度確認が必要であること。GPSは位置情報だけであり、高度、コンパス等の機能は付加されているものなので機器を過信しないこと。アクセスポイントが多い市街地等ではスマホ等携帯の方が精度が良いこと、バッテリーの持続時間は10時間程であり、使用条件にもよるが寒さにも強く放電もしないリチュウム電池が良いこと、経緯度表示は10進法と60進法があるので機種による設定を確認しておくこと、地図の取り込みにはトラックとウエイポイントで設定しておくと使いやすいこと等、プロジェクターを通し地図の作成要領や目的別の管理方法等について説明いただき、それぞれの熟度や時間にも制約された中で難しい研修内容でしたが、参加者からはこれまでと違った登山の楽しみ方に関心も高く、新しい分野での知識ができたとの声が聞かれました。 
 15時40分からの指導員会研修・総会では、菅野指導委員長より事業経過報告及び指導員資格の名称変更、更新登録、資格取得等に関する説明。 
 阿曽遭難対策委員長からは平成27年度全国山岳遭難対策協議会から山岳遭難事故の傾向として中高年登山者の事故が多く平成26年度での発生件数は2,293件、遭難者は2,794人で昭和36年以降最も多く、近年火山による被害も発生しており、手軽な登山届の提出と遭難時の速やかな捜索救助のため各県警や自治体との協定による登山計画(登山届)登録システム「コンパス」の運用が進んできていることから活用についての照会がありました。 
 高取自然保護委員長からは野生動物による食害と富士山の世界遺産登録により平成27年夏から1,000円の入山料が必要になってきたことや、ソーラーランタンの照会がありました。 
 齋藤競技部長からは平成27年度事業報告並びに平成29年7月30日〜8月3日に蔵王、月山を会場に開催される、全国高等学校総合体育大会(南東北インターハイ)登山大会への協力依頼と、今後選手強化、育成と合わせSC(スポーツクライミング指導員)の養成講習会等も計画しているので大会運営にあたっての資格取得に向けた協力依頼がありました。 
【二日目】8:30〜12:30
 好天に恵まれ予定通り8時30分から総合スポーツ公園グランド周辺でGPSによる模擬地図を利用したルートと位置確認の実習、コンパス使用要領、スタティックロープによるプルアップ、プルダウンと結束部通過方法、土嚢袋での支点の取り方、SAB(スタンディングアックスビレィ)による確保要領、コンテニアンスによる確保要領について研鑽しました。
 GPSによるルート確認については、衛星捕捉状態や障害物、携行方法にも精度に影響するので特に出発位置確認の為には、準備段階で早めに起動することが重要であること、それぞれの機種による精度や使用方法の違いを確認していた。コンパス使用要領については機器の故障やバッテリー切れ等のアクシデントが発生した場合、読図と合わせ最も基本となる習得技術であることから今回初心者指導の際の演習図とポイントについて資料とした。
 ダイナミックロープとスタティックロープとの違いについて実際にテンションをかけた場合や、プルアップ(吊り上げ)・プルダウン(吊り下げ)システム要領やバックアップの取り方、使用器具の使いやすさ、結束部の通過方法について研修しました。
 土嚢袋による支点の構築について実技指導があり、雪中に30cm、50cm埋めた場合の強度や抜け出しについて検証を行い、4〜5人での引っ張りにも十分耐えることを確認した。又、スタティックロープを使用した際、落下衝撃緩和のためショックアブソーバーの結び方について検証しました。
 今回はソリを利用し5m滑走した場合の動作状況を確認しましたが、斜度や落下状況にもり瞬間的な衝撃による作動の為にはいくらか緩めにしておくことや作動範囲等更なる検証の必要が感じられました。土のう袋及びショックアブソーバーにはφ6mmシュリンゲを使用しましたが、実践的な使用にあっては強度や動作等についての信頼性について更なる検証が必要です。スタカットクライミング(隔時登攀)時の最新のSAB確保要領については資料に基づき従来の方式から変わったピッケルと足場の位置関係、確保後の処理について研修しましたが、現場状況により構築可能な足場の確保や滑落時のロープ操作、確保体勢の保持、滑落停止から加重の中でのビレィ構築等について、段階的により実践的な場面での研鑽が必要と感じました。ポイントとしてビレィスリングはφ7mm以上を使用すること、確保支点は雪質にもよるが十分に踏み固めピッケルの抜け出し防止と前もってカラビナをセットして雪面に突き刺すこと、滑落停止後のメインロープのマストノットでの固定などを再確認した。コンテニアンスクライミング(同時登攀)要領については、資料として小国山岳会員の高貝喜久雄氏のN方式を添付させて頂きましたが、N方式(荷物のN)はより実践的な考え方に基づいた確保方法です。セルフビレィと同じにザックにもビレィを取り滑落時の紛失を防ぐ、滑落時の引力加重や確保者の負担軽減からロープの長さも5〜10m程度にし、声の届く範囲(荒天同時は通話無線の使用も有効)で行動すること、基本的に体を支点として確保体勢をとることになるので同時登攀が困難と判断された場合は早めに隔時登攀に切り替えることなどを確認しました。
 研修会の開催にあたっては登山形態や熟練度の違いにより内容の検討に苦慮するところですが、参加者からは新鮮な知識と実践的な技術を学べて良かったとの声が聞かれ、終了時間を30分延長するなど有意義な研修会となりました。 
 今回の研修にあたっては、公認山岳指導員義務研修としてまた、山形県山岳連盟加盟団体へもご案内し「安全登山」に関する研鑽の場として実施したところですが、関係者の皆さまはじめご協力頂きました小国山岳会、参加者の方々には大変お世話になりました。有難うございました。
今回の参加者
稲泉会長の挨拶
菅野登山部長
GPSとパソコンににらめっこ
金野講師
パワーポイントで説明
ここからは登山部の事業報告(指導員会)
阿曽副会長(遭難対策)
高取副部長(自然保護)
齋藤競技部長
池田事務局長
翌日の講義
前日GPSに落とした地点を探す
土のうを使った支点 結束したロープを1/3で使う

おわり