登山者情報2,146号

【2018年09月20日/祝瓶山のスズメバチ/井上邦彦調査】
 19日の夕方、役場から「〇〇山岳会員と名乗る方から、祝瓶山鈴振尾根で女性が蜂に刺されたと電話があった」との連絡があった。一口に鈴振尾根と言われても巣は探しようがないが、念のため〇〇山岳会の関係者に「本日、祝瓶山を登った会員はいませんか?」とメールを送った。
 明日は大境山登山道の刈り払いに行くつもりなので、早々に床についたが枕元の電話で起こされた。蜂の巣の場所が分かり、蜂はスズメバチとのことである。20日に祝瓶山で訓練山行を行う予定のパーティに「私が一緒に登り、蜂は処理する」旨を告げ、LFD(齋藤弥輔)に電話を掛け、同行してもらうことにした。また公園管理員にも話を通し、小国山岳会の専用掲示板に計画変更を書き込んだ。
 07:04駐車場発、817m峰から蜂を探しながら下ったが「樹木の腰の高さに穴があり、そこに入っていった」という穴が見つからない。ブナグラノタルミ(鞍部)まで下ったが、分からない。しかたがない、危険ではあるが、登山道の樹木を1本1本足で蹴って刺激を与えて蜂の飛来の有無を確かめながら登る。
 私達が追い抜いてきた登山者とすれ違う時に「すぐ上で蜂が飛んでいた」と教えてもらい、そこへ行くが見当たらない。さらに下ってきた登山者にも尋ねると「あの木の所で飛んでいる蜂を見た」とのこと。
 ようやく探し当てた場所は、キタゴヨウの根本の穴である。スズメバチに間違いない。さらに大きい、オオスズメバチの可能性がある。女性は下山中に刺されているので、ここでは登りになり、腰の高さに感じたのだろう。観察を行った後に、数m下った所にザックを置いて準備をする。
 木の洞や根本の穴では、石油を使った処理はできない。掘って巣を取り出すことも難しい。そこで大井沢の志田菊宏さんに教えてもらったスミチオンの粉剤を使うことにした。
 スズメバチ処理用の防護服を着たLFDが巣に近づき、手で巣の入り口を露出させる。蜂が飛来しLFDを襲うが、悠然と構えたLFDは空中で停止する蜂を手にした移植ベラで叩き落とす。カッパを着ただけの私は蜂が飛来するたびに、蜂スプレーで対応する。追いかけてきた蜂が私の腹に体当たりしてくる。多少の衝撃はあるが、問題はないが数m下に走って逃げる。
 持参したスミチオン粉剤を移植ベラで広げた巣の中に投入する。巣から真っ白に粉を浴びた蜂が飛び出してくる。蜂スプレーと違って即効力はない、それが良い。粉を浴びた蜂が巣の中に戻って、巣の中にスミチオンを散布してくれるのが狙いなのだ。
 処理を終えて休んでいると、訓練一行が降りてきた。カッパを着て1人ずつ、蜂が飛来しないタイミングを見計らって通過してもらった。
 09:19彼らと一緒に登山を始め、祝瓶山々頂で眺望を楽しんだ。一の塔では使えなかったが、山頂では場所によってスマホで会話をすることができた。御西小屋に向かっている筈のMNN(草刈広一)に撮影してきた画像を送信し、鑑定を依頼する。御西小屋と無線をしていると「雨がぱらついてきた」とのこと、一足先に二人で下山をすることにした。
 13:51再び巣の脇を通過するが、蜂を見かけることはなかった。14:50駐車場に戻る。帰宅するとMNNから「オオスズメバチのようです」とのメールが届いた。また訓練一行が巣の脇を通った時もハチの姿は見かけなかったとのことであった。
 今回の事案は登山者がスズメバチに刺された時や巣を見つけた時に、何処にどのように連絡を行うのが良いのか。通報を受け取った側はどのように対応するのが好ましいのか。マニュアルを作る必要性を強く感じた。
 同時に登山道の維持管理が誰によってどのように行われているのかという実態を、登山者や行政が殆ど把握していないという現実を突きつけられた感を強くした。また、無防備では危険すぎるスズメバチの駆除を実施している維持管理者は多くない。私達が活動しているNPO飯豊朝日を愛する会が蜂処理をしても、何処からも費用は出ない、全て持ち出しである。みんなが尻込みするのも当然な状況もある。これらの課題を整理していく必要があるだろう。
今回の行程
オオスズメバチの巣の場所
林道終点(登山カード記載所とトイレが設置されている)
祝瓶山登山口
水場への分岐
尖っているのは一の塔、右手の松峰が817m峰)
この松の根本に巣があった
巣のある根本
防護服を着て巣に挑む
木の皮が剥がれかけているのが巣の入り口
巣を観察する
入り口の障害物を取り除き、枝で巣をつついて間違いないことを確認する
刺激されて蜂が次々と飛び出してくる 巣に間違いない
巣にスミチオン粉剤を投入する
泡を吹いているスズメバチ
戻り蜂を叩き落とす
移植ベラで叩き落とされたスズメバチ
中央やや左手の白いのが巣
スミチオンで真っ白になった巣
山頂に向かう
一の塔が見えた
大朝日岳方面
木の実がたくさんなっていた
一の塔から二の塔
山頂が見えた
分岐から大朝日岳
最後の登り
祝瓶山々頂にて
サンプルとして採集してきた蜂はエタノールで保存します
大きさは身体を丸めた状態で約30mm
腹部は黒い部分がはっきりしています。
嘆願の周りはスッキリとした黄色
間違いなくオオスズメバチのようです

終わり