登山者情報2,163号

【2019年07月08日/ダイグラ尾根遭難・梶川出合蜂の巣撤去/井上邦彦調査】
 7日山開きBコース1班が飯豊山荘に到着しトマトを食べている時、遭難発生の連絡があった。1班に随行している渡部救助隊長は、携帯電話が通じる飯豊山荘の玄関に座り込んで情報収集を始めた。
 現場はダイグラ尾根宝珠山近辺、単独の男性が滑落し、119番にスマホで連絡をしてきた。片手首骨折、片足捻挫らしいとのことである。先程、飯豊班3名と警察署員3名が現場に向かったという。とりあえず渡部隊長には小国警察署に向かってもらい、私達はまだ戻ってきていないA班(梶川尾根コース)を待つことにした。天候は雲が厚く垂れ込めている。また県警ヘリは点検中、防災ヘリは別事案で出動中とのことである。本日中のヘリによる救出は無理だ。
 夕方、飯豊班の隊員が1名入山した。署員1名が体調不良のため途中に残ったので、その支援に向かうとのことである。19時頃に先発隊が要救助者と接触した。渡部隊長から私達は翌朝4時に湯沢ゲート集合との指示があった。
 翌朝、湯沢ゲートは霧雨で雲に覆われていた。林道終点まで車で入りダイグラ尾根に取り付く。元気の良い隊長・若山・清水には先に進んでもらい、羽田と井上はマイペースで高度を稼ぐが、警察2名が離れたので羽田に同行してもらうこととし、井上が先発の後を追う。
 仮称米栂ノ平で、先発隊と合流する。ここから上空は雲がなく青空である。防災ヘリのエンジン音が聞こえ、樹間から吊り上げ作業を行うヘリの姿が視認できた。無事にピックアップの報を聞き安堵する。現場は宝珠山の肩から急な残雪を約300mトラバースした所。要救助者は長い残雪ではなく、その上部にある3mほどの残雪を通過しようとして滑落、約30m雪のない所を岩を避けるようにして落ちて止まったとのことである。長い残雪で滑落したら助からなかったかもしれない。
 昨日出動した隊員から「食料と水が足りない」との連絡があり、私達は休場ノ峰まで登り待っていた署員1名と合流、持参していた食料と水をデポし下山することにした。
 休場の峰には不思議な穴があった。食料と水をデポする日陰を探してわずかに進むと、登山道の両側にたくさんの穴が掘られ、ヒメサユリの茎が散在している。どうも百合根だけを持ち去ったらしい。陽光を好むヒメサユリは樹林帯で育たたい。ダイグラ尾根ではここからヒメサユリが始まるが、誰かがここまで登ってきて移植ベラで掘ったとは考えにくい。イノシシはまだここまで登って来てはいないはずだし、線状に掘り返す筈だ。サルとも考えた。サルはヒメサユリの花の蕾を好んで食べる。しかし硬く踏みしめられた登山道を素手で掘れるのだろうか。サルの群れなら特有の臭い糞がある筈だ。あと考えられるのは、クマだけである。
 ここまで来ると携帯電話が使用可能となる。LFDに電話をして、蜂防護服を持参して天狗平ロッジに向かうよう連絡をした。私は一人先に下ってLFDと合流し、梅花皮沢の梶川出合を目指した。高巻きの登山道にクロスズメバチが巣を作り、昨日の山開きで2名が刺されている。この巣を撤去して、本日の作業は終了した。
種蒔の池にはモリアオガエルの卵(泡の塊)
宝珠山の肩付近でホバリングする防災ヘリ
休場の峰から宝珠山
休場の峰にあった不思議な穴
ヒメサユリの茎だけが残されている
人間の仕業?ここまで登るのは考えにくい
一面に点在する穴
朽木の根本はクマが昆虫を探すポイントでもある
登山道脇のキタゴヨウにクマ剥ぎがあった
まだ新しく、クマの毛と思われるものも着いている
昆虫が閉じ込められていた 遠い将来、昆虫入りの琥珀になるかも
登山道にあったクマ糞 登山者が踏んだようだ
食べている植物が分かる
梅花皮沢梶川出合にあったスズメバチの巣
何匹もこちらを伺う クロスズメバチだ
防護服を着て ハエ叩きで何匹かサンプルを採集する
脳震盪を起こしたハチを水筒に入れる
じゃまになる木の根を切断
ピッケルで穴を掘る
露出した巣
巣を撤去する
サンプルとして採取した成虫

終わり