登山者情報第2,385号-クマ

【2024年9月4日/権内尾根/井上邦彦】

 標高631mの雨量計跡を過ぎ、645m付近にクマの糞があって間もなくであった。糞から距離約30m、標高差15m、微かにサッという音がしたので、左前報を見るとブナの木から降りようとしているクマの姿がはっきりと見えた。
 左腰のクマスプレーを取り出し、「ほほう」と二度声を掛けた。クマの姿が見えたのは一瞬だったので、スプレーを構えながらカメラのシャッターを数回切った。
 クマとの距離はおおよそ10であったろう。登山道は曲がりくねっているので、先は見えない。今回の登山道調査の主立つ目的であった林道の状況と登山道の刈り払い状況を概ね把握できたので、そこから降ることにした。
 クマはまだ若い成獣と思われ、眼を合わせることはなかったが、頭部の耳ははっきり見えた。クマは上を向いてブナの木に抱きついて降っており、爪を立てているであろう右手も確認できた。
 なおクマ鈴は腰に下げて、小さいけれども澄んだ音を鳴らしていた。 

円の中心がクマと出会ったところ
菱型の中心はクマ糞のあった所

登りの途中でクマ糞を見つけたが、下山時に採集することにして登り続けた

クマ糞から僅かに登った所でクマと遭遇
この場所は通称「賢吉坂」と呼ばれていると稲葉さんが教えてくれた
故賢吉さんは高橋千代吉さんの息子で、長年に渡り杁差岳の登山道や山小屋の維持管理に尽力された方である

下山途中でクマ糞を採集する。
ケースの大きさは「8.5cm×6.5cm」

若干降った所にあったタカノツメの実
以前にこの近くでクマがタカノツメの木に登って採食した跡を確認している。

ブナの実は皆無ではない。数は少ないが稔っている樹木が散見された。
私に驚いて降りてきたクマはブナの実を食べようとしていたのかもしれない。
クマは食事に夢中になると、多少の刺激には動じなくなるという。
クマがブナの実に集中することなく私に気づいてくれたのは幸いだったと言えよう。

サンプルとして持ち帰ったクマ糞
まるで小豆餡のように見えるが、鼻を近づけると甘酸っぱい香りがした。

クマ糞をザルに入れて洗うと、山ブドウのような色の液が出た。
水を入れ替えて何度も洗う。

サンプルとして採取してきたタカノツメの実
まだ黒く熟す前の物だ
クマ糞とよく似ている

クマ糞は種と思われたので
タカノツメの実をナイフで割ってみたら、種がふたつ出てきた

右がタカノツメの実
左が実に入っていた種である

洗ったクマ糞の画像を拡大してみたら
同じような種が写っていた。
やはりタカノツメなのだろうか?

翌日、乾いたクマ糞

この糞をカッターで割ってみたところ
これ自体が種であることが分かった
すると糞はタカノツメではないことになる!

たまたまFBに、4年前の私の投稿が表示された。
クマは1歳の初夏に子別れするが、ウワミズザクラの実に夢中になっている時に親が姿を消すと聞いたことがある

以下はそのFBに掲載した画像と説明である

「未消化のまま実がたくさん」

「道に落ちていた糞、若干時間が経過しているようだ」

「頭上を見上げると、ウワズミザクラの実がなっていいた」

ふとウワズミザクラの焼酎漬けを作っていたのを思い出し、実を取り出して皮を剥ぐと、クマ糞とそっくりだ。
これを割ってみたら種そのものだった。
まさしくクマ糞の正体はウワズミザクラであった。

おわり