登山者情報437号

【2000年02月12日/ホコ石〜白太郎山/井上邦彦調査】

今日は一日の自由時間が取れたので、白太郎山の東北東にある1010m峰に登ることとした。のんびりと朝食を終えてから自宅を出る。最奥の集落である徳網の除雪終点に車置きスキーを履いて歩き出す。昨日から今朝にかけて20cm程度の新雪。トレースが続いている、誰かが針生平に向けて昨日歩いたものだろう。歩き出しで間もなく、ストックが壊れた。これは、先日購入した深雪用のリングを既存のストックに取り付けたものだが、固定部分が弱かったようだ。私物缶からアルミ針金を出して修理する。砂防ダムの脇にスキーが一組立てられていた。誰かがここから登ったのだろうか。天候は小雪、気にならない程度である。穴淵小沢手前の砂防ダムは、近年魚道が作られた砂防ダムで、カッターシャツを脱ぎ、長袖の下着1枚で進む。橋の掛かっている大きな沢がキリノ沢であり、ここから先は杉林になっている。
高度計を377mに設定し、尾根の末端から登り始める。杉林の中に入ると雪が締まっており、くるぶしまでしか沈まない。450mで尾根上に出ると雑木林になり、部分的にクラストしている所もある。470mで左の杉林と合流する。530mで再び雑木林となり、風が強くなってきた。カッパを羽織る。660mにブナが3本立っており、ここから上は快適そうなスロープである。今度はもう片方のストックリンgが抜け落ちる。同じように修理してさらに登る。弱層テストを行うが、表層より15cmでやや弱い。その下も柔らかい雪なので両手で掘るのに飽きて、ストックを突き刺してみる。80cmほど軽く刺さった。700mの平坦地にまだ小さい杉が植えられており,その根元からウサギが走って逃げた。耳の先端の黒さが印象的であった。キリノ沢を挟んで白太郎山が見える。北側には針生平の白い台地と白布平のブナ林が続いている。

ウサギが飛び出した穴 白布平のブナ林を見下ろす

840mからブナ林に入る直前に、毛手袋・オーバー手袋・カッターシャツ・目出帽を着ける。なかなかのブナ林である。急傾斜のブナ林となると雪質と風紋の凹凸がきつい。傾斜が緩くなった途端、北側に雪庇が張りだし、さらにナイフリッジのようにそそり立っている。南側の斜面を恐る恐るトラバースする。何処が山頂か良く分らない。小さな雪庇状に抉られた部分で躊躇していると、突然足元から40cmほど剥げるように崩れ、それがきっかけとなってこれから進む鞍部が雪崩た。ともあれこれで安心して、約2m下にスキーを履いたままで飛び降りる。

白太郎山を望む 山頂手前の雪庇
ホコ石山頂と大岩 ホコ石山頂のブナ


12:00ちょうどに分岐点に到着。山頂の北東直下に大きな岩が立っている。これが「ホコ石」のいわれだろうか。視界が無くなってきた。幕営したくなりそうな広場でツエルトを被り、ラーメンを煮てビールで乾杯。高度計を1,050mから1,010mに訂正。ODDと無線を更新する。磁石で方位を定め、シールを着けたまま下るが、やはりほどんど滑らない。南側の雪庇に近づくと深く潜る。鞍部で小さなピークを越えて、最後の登りの取りかかる。大きな雪庇が眼上に覆い被さる。キックターンをしていると、雪面に亀裂が入る。その様子を撮影していると、突然にウサギが飛び出した。広角で亀裂を撮影したフィルムに写っているかもしれない。雪庇の弱点を探し、スキーを着けたまま強引に乗り越えようとして、スキーが雪庇の上に上がった瞬間に雪庇の上の表層雪が雪崩落ちた。気づくと両手を雪庇の上の雪面に深く突き刺して身体がかろうじて引っかかっていた。これ幸いと足場を固めて、雪庇を乗り越える。この上は真っ白な世界。前回登っていいるので、視界は無いが、白太郎山々頂であると確信する。

ホコ石・白太郎山間の鞍部

山頂で、携帯電話を試してみる。ODDと問題無く通じた。ただ気温が低いのでバッテリー的には問題があるだろう。また目出帽を脱がないと相手の声は殆ど聞き取れなかった。高度計を1,020mから1,000mに訂正する。いよいよ滑降に移るため、シールを剥がす。磁石で方位を確認し下降開始。ところが傾斜が緩すぎる。再度方位を確認するが、間違いはない。しかし下降と言うより真っ平である。20分ほど進んで、さらに磁石を出してあれこれ考えていると、ある事に気がついた。私はナイフ・呼子・コンパスを一本の紐で繋いで身に付けている。オーバー手袋で操作したり、素手で冷たさを我慢して操作したりしていると、何気なくナイフがコンパスに近づいて磁石jを狂わせているのだ。改めて高度計とコンパスと地図を照らし合わせた結果、現在地は白太郎山南700m標高900mと判明した。さてシールを着けなおして山頂まで戻るべきか、それともヒグラ沢をスキーで突っ切り、甚五郎沢を目指すか、どちらにしても嫌らしい判断が迫られた。意を決してヒグラ沢に入る。とにかく下りすぎ無いようにと斜下降を続ける。ふたつ目の尾根に上がった所で、目的の尾根と思い下降するが、すぐに間違いに気づく。 ここでもウサギが逃げて行く様子を確認する。次ぎの斜面は真っ白な大斜面、上部には落ちそうな雪庇も引っかかっている。深雪の中、衝撃を与えないように恐る恐る横断し、雪庇を乗り越えた所で、次ぎの尾根を見てがっくり、シールを貼りなおし登る。沢の源頭でトラバースしようとすると、スキーの先端部分から雪崩が発生した。表層雪崩が起きてしまえばその後は安全と言う無茶苦茶な理論で、トラバースを強行し、これでようやく当初の計画どおりの尾根に辿り着いた。

スキーにより雪崩落ちた雪層

尾根を気分良く下り、780m地点で、何度も何度も現在地を確認する。ここで計画を変更し、車の回収が楽なように徳網集落に向かうこととした。コンパスの方位を固定し、あとはコンパスだけを確認しながら下降する。雪質が重くなり、直滑降は雪が貯まってびくともしない。杉林に入るとカンジキの跡が縦横についていた。ウサギ狩りであろう。杉林の中はとにかく滑りにくい、転倒を繰り返して、なんとか何とか徳網に到着する。前自然公園管理人の伊藤辰ヨシ(漢字が無いのでカタカナにしました)さんにばったり。16:40車に戻り、今日の山行は終了した。

ルート概念図

徳網08:36〜08:46ストック修理08:51〜08:55砂防ダム〜09:01フカ沢〜09:08砂防ダム〜09:12穴淵小沢〜09:15キリノ沢(377m)〜9:32雑木林(左尾根は杉林、450m)〜左の杉と合流(470m)〜09:46雑木林(530m)〜10:12ブナ3本(660m)〜10:15ストック修理10:18〜10:27傾斜緩く杉林(700m)〜10:46杉林が終わる(780m)〜10:57ブナ林に入る(840m)〜急なブナ林(950m)〜11:54雪庇地帯をトラバース(1,050m)〜11:54ピーク(1,050m)〜12:00ホコ石山頂(1,050→1,010m)12:43〜12:57鞍部(870m)〜13:05小ピーク〜13:54白太郎山々頂(1,020→1,000m)14:10〜16:30徳網