登山者情報449号

【2000年04月09日/針生平〜祝瓶山岳/井上邦彦調査】

関さん宅で「大石橋を掘ったものの不完全であるとのこと、雪が繋がっているので雪崩が出でいない箇所がある」とのルート情報を仕入れる。徳網に車を置き、05:55スキーを履いて出発。ワカンの足跡が続いている。雪面はカリンカリンの堅雪である。イシグロシミズ沢からの大きな雪崩跡があった程度。06:35針生橋は、橋の真中に亀裂が入り茸の笠のように両側に垂れ下がっている。これこそハシ(端)を歩くなである。2件の小屋が屋根まで雪に埋まっている。上流側から見れば単なる雪の小山にしか見えない。目指す祝瓶山が輝いていいる。高度計を415mに設定し、地図を出して取りつきルートを確認する。07:05〜15、大石橋手前でスキーをザックに括り付けツボ足でトラーバースし、柴を掴んでぶら下がり強引に橋板に足を乗せる。踏み板は1枚、片手でワイヤーを掴んで渡り終えると、左岸側は関さんの仕業だろう階段が切ってあった。ところが雪が堅いので支点を取れず恐る恐る左足を雪の塊に乗せて、何とか身体を持ち上げる。大石沢は、スキーを脱いで沢の踏み板と飛び石を伝って対岸に渡る。大石小屋は入口側から小屋と雪の隙間から覗くと、何とか入口の扉の上端が見えた。大石沢沿いに河 岸段丘を進む。雑木林にはニホンザルの足跡が続いていた。
07:26〜33、尾根の末端に取り付く。雪崩の音が響いてくる。堅雪のためスキーアイゼンを取り付ける。サルとカモシカの足跡を追うように登っていくと、小柄なサルが5匹ほどこちらを振り向きながら先導してくれている。急斜面になるとシールが食い込まないため、スキーの先端にカラビナを付け、5mテープでザックに固定する。テープの長さはザックの腰バンドに付けたカラビナにクローブヒッチで調整する。キックステップで登り、緩斜面になるとスキーに履き替える。マンサクが咲いている木を2本見かけた。08:36〜48、高度計790m、夏道の尾根と合流した地点にスキーをデポする。角楢平を見下ろすと、雨量計は確認できるが、小屋が見つからない。どうやら角楢小屋は1棟だけが頭を僅かに覗かせている程度に埋もれているようだ。始めて食事と飲み物を摂る。

マルバマンサクが咲く 角楢平と大朝日岳

夏道が出ている部分もあったが、嫌らしく雪が付いている個所もあり、ピッケルを抜いて尾根の左右をトラバースする。09:00、高度計830m、ピークに到着する。雪崩の音が大変に多い。尾根の右の雪斜面を進み、09:07鞍部「ブノグラノタルミ」通過。910m付近で夏道になる。時間不明、飴を舐め、アイゼンを着けピッケルを抜く。アイゼンは快適に雪面に食い込み高度を稼ぐ。09:48高度計1,080m小ピーク、一ノ戸が目の前に見えた。雪が腐り始めるが、10:04、1,200mから雪面に海老の尻尾が波打つ。

817m峰から一ノ戸と主稜分岐峰 祝瓶山頂から大朝日岳に至る主稜線

10:12〜26、高度計1,250m一ノ戸着、食事を摂る。前回に懲りて今回は携帯電話をホッカイロで包んできたものを取り出す。バッテリーは十分だが圏外の表示。ODDと無線交信、下界もここも無風快晴である。飯豊連峰が霞んで見える。一ノ戸から下り始めてすぐ、隠れた穴に落ちる。北東の雪庇を避け、南西側斜面を斜登する。10:48小ピークで主稜線と合流する。この辺りからクラストした雪の上に新雪が出てくるが、異様に赤みを帯びている。最後の登りはギラギラに光る急斜面であり、ガンコウランやコケモモが薄い氷の膜に包まれ、お菓子のように輝いている。

一ノ戸から主稜分岐峰 主稜分岐峰から祝瓶山頂

11:01〜28祝瓶山頂着。三角点は露出しており、風上側は一部草原も出ている。食事を摂り秀と喜美の酒を山頂に撒きご相伴に預かる。ODDと交信し、山頂の眺めを楽しむが、大朝日岳方面は全体に赤煤けている。黄砂の影響だろうと推測した。(参考:気象庁は8日、南西諸島から北海道にかけての全国50を超える気象台や測候所で黄砂を観測したと発表した。山形でも観測された。同庁によると、これほど広範囲で一斉に黄砂が観測されるのは珍しいという…。2000年04月08日山形新聞)
11:44〜49、登ってきた単独行者とすれ違う。新潟の方で、竹製のストックが経験を感じさせた。11:57〜59一ノ戸でODDに下山を開始した旨を交信。12:08高度計1,090mピークを通過。12:12〜20高度計990mで始めて夏道となる。アイゼンとピッケルを収納する。12:39高度計840mピーク通過、暑い。ブナの芽が膨らんでいる。12:46〜13:20高度計800mスキーデポ地点着。ラーメンを煮て、滑降の準備を行う。雪が腐ってきている。始めは尾根筋、その後は南側斜面をキックターンで下る。途中一度、下りすぎてスキーを引いて若干登り返す。後は、南斜面をひたすら斜滑降し、13:52高度計485m、尾根取付きに到着。
大石沢はスキーを担いで渡る。問題は大石橋である。悩んだ末、スキーを肩に担いで渡ることとした。左岸は踏み板に乗る最後の部分は足が届かない。前回山行の嫌な思いが頭をかすめるが、右手のワイヤーを握り締めて何とか成功。中程まで橋を渡った時、突然、「ブチッ!」と音を発して橋が大きく揺れた。右岸側の踏み板を吊っているワイヤーが切断したのだ。恐る恐る何とか橋を渡り終え、それからが大変である。目の前は高さ5m程度の雪の壁である。スキーを垂直に雪に刺し、先端にカラビナを付け5mテープをセット、もう一方の末端を腰バンドに固定し、雪面に出ているブナの枝を掴んで腕力にまかせてよじ登る。テープがいっぱいに伸びた所で、スキーを吊り上げ、再び雪面に刺す。これを何回か繰り返して、14:09河岸段丘の上に出た。
少しでも楽をしようと、河岸段丘の山沿いをスキーで快適に進むが、途中2箇所ほど深い沢があり、山端の雪崩跡の通過を余儀なくされた。3度目の沢で嫌になり、沢を下って車道に出る。15:30〜33大雪原となっている針生平で休憩。本日通ったコースが山頂まで見えている。14:42針生橋を通過するが、橋の中央に大きな亀裂が入っており、脇から見ると橋を包むように茸状の雪が覆って垂れ下がり、茸の中央が割れているのだ。ここから下もスキーでスムーズに進む。途中1箇所だけ本日発生した雪崩跡があった。徳網手前の左の湿地で小さなザゼンソウを幾つか見かけた。15:17徳網着。