登山者情報452号

【2000年04月30日/石転ビ沢〜梅花皮小屋/井上邦彦調査】

29日夜、山岳会の役員会の席上、明日は石転ビ沢と切り出したところ齋藤弥輔氏(以下LFD)が乗ってきた。朝5時各自勝手に出発と言うことで話がまとまった。私が起床したのが5時、無線を入れるとLFDは既に玉川集落付近を走行中とのこと。急いでザックに山道具を詰め込み出発。大淵橋で無線を入れると、戸板の砂防ダム付近を歩いているとのこと。梅花皮荘の駐車場に車を止め、ばたばたと準備を始める。隣には西俣尾根を登るというパーティが準備をしていた。
06:12駐車場発。吊り橋を渡って道路状況を見ると、スキーはそれ程有効でないと判断、ザックに固定する。なお、大淵橋からこの吊り橋の間の車道は雪崩が怖い。
LFDにはなかなか追いつかない。先をスキーを履いた登山者が歩いている。倉手山登山口の標識は出ていた。戸板沢手前の砂防ダム付近は雪崩に緊張する。おおふたがり沢の先の吹き付けは、路肩が出ており難なく通過。吹き付け先のデブリの上に今日のものと思われるブロック(堅い雪の固まり)が跳ねて行った跡がある。雪崩には早い時間だが、この分では今日は十分に気を付けたほうが良さそうだ。天狗橋袂の清水は露出していた。07:10〜12天狗平で休憩していると、先程追い抜いてきた登山者が追いついてきた。聞くと峡彩山岳会のストウさんであった。今日は湯沢から梶川尾根を登って丸森尾根を下るとのこと。天狗平からスキーを履く。シールなしで快適にブナ林を進むが、相変わらずLFDとの距離は縮まない。ブナ林はまだ冬の様相である。
07:56〜08:06上の砂防ダムで休憩。始めての食事を取る。足元には食べ頃の岩魚が2匹、底で悠然としている。ここから見るお山もなかなかのものである。ダムの前後だけスキーを担ぎ、デブリから再びスキーを履く。いよいよここから先は雪崩の巣である。素早くデブリを通過してブナ林に入る。ブナ林を抜けると、梅花皮沢には左岸からの雪崩で大きなスノーブリッジが作られていた。このぶんでは右岸沿いに通行できると思われたが、とりあえずは左岸を通る。登りにかかる直前から沢に下り下ツブテ石に上がる。下ツブテ石直前から沢は雪渓に覆われているが、下ツブテ石の上流は大きく陥没している。慎重に左岸の傾いた雪渓斜面をへつるように進む。上ツブテ石から上流は安定した雪渓になっている。ババマクレ(通称)でLHDを無線で呼ぶが応答がない。地竹原まで進むが、うまい水から沢身に下ったというのが最後の交信なので、気にかかる。しつこく呼んでいるうちに、マイクが無線機本体から外れて入ることに気づいた。刺し込み直して呼ぶと、ずっと上流の滝沢出合手前に姿を確認することが出来た。

地竹原から滝沢出合を仰ぐ 梶川出合すぐ上流の雪崩跡

地竹原は広大な雪原と言う感じである。滝沢出合から右に折れ、登りになってすぐ、08:57梶川出合である。ここで雪渓は左に折れ、すぐ上流の水場は露出しており使用できる。水場の上斜面のブナが尽く下流側になぎ倒されている、地形から見て上部からの雪崩とは思えない。おそらく対岸で発生した乾雪表層雪崩が沢を乗り越えてブナ林を直撃したものだろう。
二人とも空腹でふうふうしながら歩いていると、LFDから小声で無線が入る。「左手斜面の上方300m、熊がいる」見上げると、確かに雪庇の下を移動している黒い物体が見えた。良く観察すると、肉眼でも手足の動きが分る。間違いなく熊である。

中心部よりやや右下の黒い点が熊である 石転ビノ出合から石転ビ沢全景

09:20〜40、石転ビノ出合で休憩。ここから下流はブロック雪崩が盛りである。石転ビノ出合を境に、下流は黄砂により汚れている感じがする。上流は新雪で純白に輝いている。数人が既に雪渓を先行している。先行パーテイ4人はつぼ足、1人はスキーで登っている。我々もスキーのままで登る。10:37〜47、ホン石転ビ沢出合、新雪は約20cm。石転ビノ出合から上部は、絶え間なく表層雪崩が発生する。新雪と旧雪の馴染みが悪いのだろうか。スキーが飽きてきたので、時折スキーを引いて先行パーティのトレースを利用し、やや傾斜が落ちるとスキーに切り換える。それを見ていたLFDは面倒とばかりにスキーをザックに固定して担ぐ。

北股沢出合から朝日連峰を望む

11:40〜50北股沢出合、これより登りにかかる所で先行パーティに追い着いて休憩とする。ここから上部は新雪雪崩も発生していない。ザックを担ぎ、関西のパーティにお先にと断り、最後の斜面を直登する。1人で先行していた下越山岳会の方のスキーを諦めて担いだようだ。途中から彼のトレースを利用させていただき、追い着いた時点でトップを交替する。雪は柔らかく上から体重をかけるだけで足場ができる。上部に上るにつれて雪が締まってきたので、ストックをピッケルに切り換え、キックステップで蹴り込みながら高度を稼ぎ、12:41梅花皮小屋に到着する。

梅花皮小屋にてLFD 樽口峠の吉田君と交信するLFD

早速、二階の冬期出入口から入ろうとするが、扉は動くものの開かない。どうもさいごに利用した登山者が扉のノブをかけなかったため隙間が開き、中に雪が入って開かなくなっているらしい。ぶつぶつ言いながら、直ちに一階入口を持参したスコップで掘り始める。関西の方も手伝ってくれ、ようやく掘り出すことが出来た。LFDに二階で入口の除雪を頼み、私は管理棟の入口を掘り出すが、ここも開かない。本棟で沸かしたお湯をかけてなんとか管理棟も開くことが出来た。十分に冷えた缶ビールでLHDと乾杯し、ラーメンを食べる。
14:16、梅花皮小屋発。スキーで下降を始める。LFDはさすがに格好が良い。私は、先ほどの缶ビールが効いている(単なるいい訳)せいで、とにかく事故だけは起こしたくないのでキックターンでソロリソロリ。滑落しても止まる高度まで下がってからターンを開始するが、転倒の連続。LFDにカービングスキーの入特性とターン直後の姿勢を何度も指導してもらい、北股沢出合に到着する頃には何とか転倒せずに下降できるようになった。LFDが最悪の雪質と言うのだから、それでも何とか滑ることが出きるようになったのはLFDのお陰である。当分頭が上がりそうもない。
地竹原から下部はルート選択が難しい。こうなると私の出番である。来る時に十分ルート偵察はしておいたので、上ツブテ石で早々に右岸に移る。一箇所陥没して不安定な部分があったが、ここはぎりぎりをスキーで一気に通過。下ツブテ石から右岸を高巻く様に登り、そのまま斜滑降しスノーブリッジに到着。LFDはスキーのままで通過。スキーに自信のない私はスキーを担いで通過する。15:14左岸に到着し、踵を解放する。ブナ林を抜けて15:23上の砂防ダム付近だけスキーを担ぐ。湯沢の橋には真中だけ細く雪が残っている、LFDはここもスキーで行くという。しかたなく私が先行するが、途中で雪が崩れ水溜りに入る。LFDは難なく通過。とにかく腕前が比較にならないのだから仕方がない。天狗橋でスキーを脱ぎ、15:47〜55、清水でLFDの林檎と粽を食べる。
再びスキーを履き、脇沢からスキーを担ぐ。登る時は、何とかLFDに追い着こうとして気が付かなかったが、路肩にはフキノトウがびっしり顔を出し、官民境(民有地と国有地の境界)を過ぎるとイワウチワ・マンサク・カタクリ・ミズバショウが咲き、ブナの若芽が綻び始めていた。吊り橋を渡って16:53駐車場着。歩数計は29,827歩を指していた。