登山者情報531号

【2001年05月03〜06日/梅花皮小屋番日誌/吉田岳調査】

5月3日。朝5時、自宅を出発し、1時間近くのドライブの後、梅花皮荘に到着。駐車場にはキャンプをしている人達や登山に向かう人達が見かけられる。桜の花と新緑、そして豊富な残雪という色彩豊かな風景がなかなか美しく、まさに「やっときた春」という感じである。GW中に梅花皮小屋の管理人を頼まれていたもの、飯豊山荘までの林道区間の雪崩がまだ落ち着いていないため、遅れて今日から入ることにした。
6時20分出発。久しぶりの重装備のため、歩き出しから既に体がだるい。吊橋を渡り林道へ。山荘までの区間はだいぶ落ち着いてきたもの、まだ雪崩の危険個所が数箇所あった。常に山側の斜面を注意しながら歩く。7時20分山荘着。7名程のツアー組は梶川尾根へ向かい、石転ビ沢を登るという単独行者を追い越す。この辺りからシールをつけてスキー歩行となる。温身平、砂防ダムを通過し、下ツブテ石手前では川が出ていたため二度スキーを外した。その上には物凄い勢いで落ちてきたであろう雪崩の大量のデブリが波打った形でそのまま残っており、その雪面の上をスキーで登る。天気は曇りであるが、これは雪渓歩きには都合がいい。時々「ゴーッ」という雪崩の音が遠くから聞こえ、その都度場所を確認する。石転ビ沢出合上部の右岸よりブロック雪崩が発生し、そのひとつが私の右手を通過していった。やはり歩く時のコース選びと、もし雪崩に会ってもそれがどの方向に落ちていくのか、冷静に判断することが大切だと思われる。傾斜がきつくなり、北股沢での出合を過ぎた辺りで、スキー歩行を諦めてザックにしまう。この辺りは雪渓の真ん中にデブリが走っていたが、これは北股岳の岩斜面に着いていた雪が雪崩となって落ちてきたもののようだ。その左側の急斜面を登って行くが、梅花皮小屋が見えたのは、やっとその直前になってからである。15時20分、何とか小屋に到着した。
休憩の後、まず水の様子を見に行く。水場も避難小屋の後ろに抜いていた水も出ていない。取水口のホースが外れたか、あるいは破裂防止のためあらかじめ外しておいたかも知れない。どっちにしろ水場と水洗トイレは諦めることとする。次に小屋の入口に溜まっていた雪をスコップで取り除く。中に入ってみると比較的綺麗に使われていたが、軽く掃除を行う。お客さんは今のところ3名。その中の豊栄市のお父さん方に誘われ仲間に入れてもらう。私の後から登ってきた一人はまだ到着しない。18時30分を過ぎた頃、少し北股岳の方へ登り下を覗いてその人を発見した。村上市の渡辺さんが迎えに行ってみると言うので私も着いて行く。10分程下った所でその方と出会い、荷物を3人で分けて登り返す。19時30分小屋に到着。荷物の重さに対して自分の体力を過信していたことがバテた原因の様である。とりあえずそのまま就寝となった。
5月4日。5時頃起床、やはり朝はかなり寒い。外は氷点下のようだ。天気は快晴、風も殆どない。今日は昨日の疲れで足が痛いため、梅花皮岳と北股岳へ散歩に出掛けただけで、管理棟の備品・食料の点検をしたり、読書をしたり、登山者と話をしたりして時間を過ごした。今年は林道や雪渓が危ないという情報を流したためか、稜線歩きの人が結構多い。昨夜門内小屋に泊まった人の話によると、梶川尾根を登り、小屋まで辿り着けずに途中でビバークした8名程のパーティがいたり、また夜8時頃に小屋に到着した3名の山スキー組がいたりしたそうだ。やはり自分も含めて久しぶりの登山で体力を過信していた人が多いようである。この日の宿泊者は6名。
5月5日。5時頃起床。今日も昨日同様好天気のようである。ゆっくりと朝食を摂り、小屋の掃除を等を行って、8時、梅花皮岳に向かって出発する。15分ほどで到着。ここからホン石転ビ沢を滑ってみようというのである。出だしの急傾斜を見て足が震える。雪庇は出ているが斜面にそう多くのデブリはない。雪崩はなさそうだ。それよりも雪面がまだ固く滑落の方が心配である。コースを頭に描き、深呼吸をして滑降開始。横滑りから入り、気合いを入れてジャンプターン。ビンディングが外れないか心配しながら、雪面をガタガタと滑り降りる。急斜面を何とかクリアし、上部を確認しながらその下の斜面を滑る。足がパンパンになりながらも無事石転ビ沢へ到着した。まず念願の一沢制覇である。
1時間半で小屋まで戻る。暫く休憩の後、北股岳へ向かう。今度は北股岳山頂から北股沢出合に向かって真っ直ぐに滑り降りてみようと考えていた。一度山頂の向こう側から斜面を覗いてみる。山頂直下だけは雪庇が出ていない。斜度は勿論きついが雪面は少し緩くなっている。稜線の雪庇から雪崩が発生してもコースを選べば避けられると判断。山頂から滑ることとした。やはり今回も足が震える。深呼吸をして滑降開始。滑ると同時に軽い表層雪崩が発生する。そのため一度右手に滑って行き、一旦止まって様子を見て一気に左手にトラバース、そこからは後ろを振り返らず滑り降りた。岩が出ている所で少し休憩。ここまで来れば一応安心である。そこからはクレバスに注意しながら滑り、石転ビ沢に出た。成功である。何とも言えなく嬉しい。誰かと飲みたい気分だが、はたして今日はそんな相手がいるかどうか。12時30分小屋着。
午後はのんびりと時間を過ごす。夕方唯一のお客さんが現れ、結局その夜はその新発田のお兄さんと二人だけで親睦会を開いた。彼の話によると、烏帽子岳から飯豊本山までは殆どが雪道であるとのこと。昨夜の御西小屋は満杯だったそうだ。どうも梅花皮小屋は嫌われたみたいである。
5月6日。何時もの時間帯に起床。今日の予報も晴れであるが雲がかかっており風もあった。そのため気温はそれ程下がらなかったようである。避難棟へ行ってみると別の二人組が泊まっていた。話を聞くと、夜8時ころに雪渓から登って来たとのこと。インターネットの登山者情報で井上氏が5時間でここまで登ってきたのを読み、そんなものかと思ってやってきたそうだ。「よく言っておきます。」と一応、謝っておく。この二人は西俣峰へ、新発田の方は雪渓へ下りて行った。掃除を済ませ、トイレットペーパーを補充し、自分のパッキングをして、8時30分小屋を出発。せっかくなので再び梅花皮岳まで登ってから石転ビ沢の方へ滑り出した。最初はなかなか快適であったが、だんだんと雪が重くなる。今日は雪渓を登ってくる人は誰もいない。公園管理人の藤田氏より頼まれていた写真を所々で撮る。下ツブテ石でスキーを一度外し左岸を歩く。後は山荘を越えて天狗橋までスキーで滑って来れた。11時40分、梅花皮荘到着。そこでお風呂と昼食を摂り、そして帰宅する。