登山者情報558号

【2001年7月13〜15日/石転ビ沢〜天狗ノ庭/井上邦彦調査】

仕事を終えてから、登山道具を適当に車に積み込み、天狗平ロッジに向かう。あいにくの天候である。あすのにもつを整理し、加藤さんがあらかじめ送っておいてくれた鰹の刺身をつまみに先ずは乾杯。峡彩のメンバーも新潟から駆けつけてくれ、今年も福島・新潟・山形の混成部隊による登山道整備となった。
翌朝は武田前会長の声で目を覚ます。夜明け前から湯沢ゲート手前の登山者カード記載所で登山者の指導にあたっていた。天候はまずまず、05:44上の砂防ダムを出発する。やがて小雨になってきたのでカッパを着る。地竹原を過ぎ、崩壊地(旧落合)の高巻きを終えた所で雪渓の上に出る。滝沢出合の広い雪渓で左岸沿いとするか右岸沿いとするか一瞬迷うが、安全策を取り左岸を選ぶ。滝沢口の滝は露出していた。予想通り、雪渓には大きな穴が開いていた。雪が消えたばかりの左岸に移り大岩に出る。ここから梶川出合までの傾斜のある残雪を落ちないように慎重に渡る。梶川は雪がなく、本流のスノーブリッジを覗くとかなり薄くなっている。梶川左岸を若干登って飛び石伝いにジャンプして右岸に移り、再び雪渓の上に出て後続を待つ。ダイナマイトが爆発したような音が響いて、今しがた通ってきた傾いた雪渓が崩れ落ちた。わがパーティは大丈夫かを眺めていると、もう一度爆発音がして、AXLが「落ちた!落ちた!」と叫んでいる。慌ててザックを降ろしピッケルを抜く。最後尾を歩いていたH氏がルートを右岸沿いに取り、それを止めようとしてK氏が続いたところ、H氏の乗っていた雪渓が崩壊し、その衝撃でK氏の雪渓も崩れ、H氏は約2m、K氏は約5m転落したらしい。AXLが両手で大きく丸を作った。二人は雪渓に押しつぶされることなく無事に自力で這い上がってきたようだ。皆を待ってゆっくり進むが、ほどなく雪渓が途切れていたので左岸の夏道に上がり、赤滝のへつり登りが始まる前に雪渓に下りる。滝の部分が薄くなっていそうなので、覗き込んで確認し、一人一人慎重かつ素早く渡ることとした。
07:32〜54石転ビノ出合に到着、赤滝に向かう夏道と石転ビ沢中央の大岩の上に黄旗を立てる。大岩の先、右岸の水場が露出していたので休憩を取る。弥輔氏が作ってきた笹巻きが美味い。K氏は手の打撲が痛々しい。ここで先程転落したふたりは下山することとした。
08:37〜53ホン石転ビ沢出合対岸の枝沢で休憩を取りアイゼンを装着する。枝沢付近は薄くなっているので注意が必要である。ホン石転ビ沢はまだたっぷりと雪渓が残っており、らくせきもありそうだ。何時ものように北股沢出合から上部はガスに覆われている。落石に注意を払いながら登る。
09:26北股沢出合の清水がようやく露出していたので黄旗を立てる。軽く休んでいよいよ急登に取り掛かる。黒滝は雪渓の亀裂の下に岩が覗けた。この上部で滑落すれば亀裂に落ちて大事故になるだろう。黒滝は左岸から越えるが、ここにも黄旗を立てた。さらに左岸沿いに登ると右手(左岸側)から雪渓が入ってくる。この正面の尾根にも夏道があるが、ここには取り付かず左に斜上し雪渓中央の草付キ(中ノ島)に上がりアイゼンを外す。ハクサンコザクラ・オオサクラソウが迎えてくれた。石を落とさないよう気を付けて登る。登山道には石が浮いているので十分な留意が必要である。シラネアオイ・ミヤマキンポウゲ・ノウゴウイチゴ・ショウジョウバカマが咲いている。右手雪渓の真ん中に大きな三角の岩が突き出ており、ここで隣の尾根から先程の尾根道を合わせるのだが、雪渓のトラバースがあるので通らないほうが良い。草付キの中程、左手に水場があるが落石が降って来るので近づかないほうが良い。草付キ最上部でアイゼンを付けて、左上に伸びている尾根の中間辺りを目指す。ここが最も急な斜面で、滑落事故の名所である。まだまだ雪はたっぷりと残っているし、岸近くは氷化している。尾根の中間にある沢がルートである。ここにも黄旗を立てる。面倒なのでそのままアイゼンを履いて沢を詰めると草付キノ台地に出て、最後の雪渓登りとなる。小屋が見え夏道を僅かに登ると、10:35梅花皮小屋に到着。OTJが冷たいビールで迎えてくれた。
荷物を小屋に置き、腹ごしらえをして加藤さんに後を頼み、作業用具だけを持って、11:05梅花皮小屋を出発する。天狗の庭の作業を終えて、16:13梅花皮小屋に戻る。
翌16日、05:28梅花皮小屋を出発する。ヨツバシオガマ・オヤマノエンドウ(終)・チシマギキョウ(盛)・オノエラン・ホソバヒナウスユキソウ・ミヤマダイコンソウ(終)・コケモモ(盛)・ムカゴトラノオ・ヤマハハコ・タカネアオヤギソウ・ニッコウキスゲ・シラネニンジン・キバナノコマノツメ・ヨツバムグラ・ハクサンフウロ・エゾイブキトラノオ・ハクサンシャクナゲ・ハクセンナズナ・マルバシモツケ・マイヅルソウ・ミヤマキンポウゲ・タカネヨモギ・ヤマトウバナ・トリアシショウマ・ゴゼンタチバナの咲く中を登り、05:44梅花皮岳を通過すると道は東側になり、アカモノ・ハクサンボウフウ・イワカガミ・ハクサンコザクラ・ガクウラジロヨウラク・アオノツガザクラ・コバイケイソウも咲いている。与四太郎ノ池への分岐道は、まだ痕跡があるので入らないこと。イイデリンドウが株になって咲いている。ミヤマキンバイは終わりかけである。05:47烏帽子岳を通過する。ここからクサイグラ尾根分岐の間は何時もながら見事な花畑であり、特にシナノキンバイは素晴らしい。イワオウギ・イワイチョウ・ハクサンイチゲ・ミヤマキンポウゲ・ベンケイソウ・シラネアオイ・ハクサンボウフウ・ヨツバシオガマ・ミヤマカラマツソウ・オタカラコウ・ダイモンジソウ・タカネヨモギ・ミツバオウレン・ウサギキクが咲いている。クサイグラ尾根の踏み跡は完全になくなった。ここまで来るのに何十年を要したことであろうか、自然復元は気長に続けるしかない。イワカガミ・ハクサンコザクラ・オオバスノキ・チングルマ・ハクサンイチゲ・アオノツガザクラを楽しむと、小ピークから道は西側となり、ヨツバシオガマ(盛)・ホソバヒナウスユキソウ・キバナノコマノツメ・イワオウギ・ベンケイソウ・ムカゴトラノオ・ニッコウキスゲが咲く中を下る。鞍部で僅かに雪を踏み、06:16亮平ノ池を通過する。暫く進むと右手に枝道があり、その先の鞍部から残雪歩きとなる。この残雪歩きは結構長い。平坦な夏道を辿る、昨日と同じくモグラがでてきて、草原の穴に潜っていった。下るとカール地形になりその縁をへずる。残雪に下る踏み跡と幕営跡があるが、ここは使用しないこと。沢状の登山道を登り、06:29御手洗ノ池となる。池を過ぎてすぐの小さな残雪では融雪水が取れた。さらに三箇所ほど残雪の上を歩いて、06:46天狗ノ庭に到着、昨夜御西小屋の小屋番をしてきたAXLと合流、10:35まで作業を行う。
AXLによれば、御西小屋から飯豊山方面に向かってすぐ石に「水」と書かれた所から雪渓の縁の踏み跡を2〜3分程下ると、水が取れたとのことである。勿論本来の水場はまだ雪に埋もれている。
帰路は赤トンボの大群に包まれ、11:50烏帽子岳で一息を入れ、12:29梅花皮小屋に到着する。たっぷりと昼食を楽しんで、14:19小屋を出発する。前田氏はまだ雪上訓練を受けていないので、おそるおそる下降するが、最後の方はかなり慣れてきたようだ。石転ビノ出合から峡彩の方々は夏道を下ったが、少しでも楽をしたい私達はそのまま雪渓を下る。ところが、赤滝を覗いてびっくり、昨日とは全く異なり雪渓はかなり薄い。飛び石で右岸に渡り大石を下って雪渓に出る。赤滝を過ぎた所で、これ以上は無理と判断し、夏道に上がる。見ていると皆、梶川渡渉点を低い所にしているので太腿まで水につかっている。私は上の渡渉点を通り、傾斜のある雪渓を素早く通って夏道に入る。下った所で一旦雪渓に出てすぐ、巻き道を登り、以後は全て登山道を歩く。暫くすると背後で雷の音がする。稜線は雷雲に包まれているようだ。そうこうしているうちに突然、滝のようなどしゃぶりとなりあわててカッパを着る。17:17、全員濡れ鼠となって上の砂防ダムに到着する。帰路、ネムノキの花が満開であった。これで梅雨も明けるだろう。

滝沢出合と梶川出合の間 梶川出合下の傾いた雪渓
梶川を渡渉する 赤滝手前の雪渓
赤滝付近の状況(下流から) 赤滝付近の状況(上流から)
石転ビノ出合(門内沢出合)から ホン石転ビ沢出合直前
ホン石転ビ沢出合 北股沢出合の水場から草付キ(中ノ島)
北股沢出合から北股沢 草付キ(中ノ島)から見下ろす
草付キ(中ノ島)途中の水場(危険!) 急傾斜の雪渓斜登
梅花皮小屋に到着する 梅花皮小屋から石転ビ沢
梅花皮岳の登りから北股岳 烏帽子岳から御西小屋方面
クサイグラ尾根手前の花畑 残雪の上を行く
天狗ノ庭の標柱 天狗ノ庭から大日岳
天狗ノ庭と北股岳方面 AXLが迎えてくれた
天狗岳の急傾斜のトラバース付近 天狗岳手前から大日岳