登山者情報564号

【2001年7月28〜30日/遭難・梶川尾根〜大日杉/井上邦彦調査】

7月27日の昼にODDから電話があり「先程、関さんからの無線で北股からの落石が多く大きめの石が草付キ(中ノ島)を直撃との事。ここ2〜3日が最も危険との事なので、警察・役場等に連絡し、明日の朝顧問と警察がゲ−トで指導してもらう事に頼みました。」とのことであった。仕事を終え、ホームページにこのことを掲載し、食料の買出しをしていると携帯電話が鳴った。「小国警察署から連絡があり、遭難が発生したらしい」とのこと、そのまま小国署に向かう。状況を分析すると、北股沢出合を登っていた男性二人パーティの先行者が、ふと振り向いたところ後ろにいる筈のメンバーがいない。居合わせた男女二人パーティの協力を得て3人で探したが見つからない。仕方なく協力パーティの男性がザックを置いて単身飯豊山荘に下って助けを求め、そのまま再び現場に向かったとのことである。さらに、行方不明の男性から携帯電話で救助要請があったという。遭難者と話してみると「先行者と分かれ、登っていくうちに急になり滑落し、腕と足が骨折しているようで目から出血がある。現在の位置は全く分からない。両側に岩があり松が生えている。斜度は70度くらいある。」とのことであった。現場にいた二人は梅花皮小屋に入ったので、話を聞いた梅花皮小屋の管理人であるOTJとたまたまいあわせた下越山岳会の矢沢氏が捜索のため下山を開始した。何時ものようにGZKが無線を中継してくれる。OTJによると黒滝から下は雲海で、上部は晴れているとのことである。遭難者に電話で尋ねると「雲海から100mは上にいる」とのことである。北股沢は二本の雪渓が北股岳山頂を目指して伸びている。どちらか見当もつかないので、OTJの感を頼りに登るが、かなり急斜面になっても発見できない。藪を分けて隣の雪渓に移るが、急峻で下降できず、持参した6mmロープを切断して捨て縄を作り、二度の懸垂下降で下る。19:40頃にこれ以上の捜索は危険と判断、OTJ達は小屋に引き返すこととした。同時に遭難者にビバーク体制に入って欲しい旨を連絡した。明朝01:30小国警察署を一次隊出発、04:00天狗平を二次隊出発、夜明けと同時に防災ヘリコプター発進を確認して、各自準備のため解散した。救助作業を隊員に任せた私は、その後に民宿奥川入に車を走らせ、明日から同行する5人の荷物をチェックし当初予定の石転ビ沢を梶川尾根に変更する旨を伝え帰宅、装備と食料を整えて就寝した。
28日、奥川入で同行者と合流しパッキングの後、天狗平にて登山者を指導している小国山岳会長と小国警察署員に登山計画書を提出し、救助隊の周波数を確認し、05:29天狗平を出発、梶川尾根の急坂に取り付いた。瘠せたヒメコマツの急登を着実に登り、06:07〜16楢ノ木曲リ(800m仮称)で休憩。同行者のSPO2と脈拍数を計測するとA(92/146)、B(96/137)、C(97/110)、D(99/119)、E(96/144)であった。EHJ一行と無線が繋がる。登山者をサポートしながら、私達と同じコースを先行している。GZKからの無線で、遭難者が防災ヘリに発見され、無事救出されたことを知る。これで心置きなく登れることとなった。登山道には、オオコメツツジ・ホツツジ・ツルアリドウシが咲いており、植物談義に花を咲かせながら、全員快調に高度を稼ぐ。OTJからの無線によれば、稜線は快晴とのこと、涼しい雲の中を登って稜線で晴れれば理想的である。07:13〜29、1,020m峰で休憩する。見晴らしは効かないがそれもまた良しである。いったん鞍部のブナ林に下る。マイヅルソウ・ツクバネソウが咲いていた。だらだらとした登りを進み、08:04〜13滝見場にて休憩。雲の中で、滝がここに見えて、石転ビ沢がここに見える筈と解説。ここから再び急登が始まる。ウスバサイシンが咲いている。ノウゴウイチゴやサンカヨウの実を味わって貰う。ノウゴウイチゴは皆かなり気に入った様子である。08:54〜09:22五郎清水で休憩。全員で水場まで下り顔を洗い水を飲む。今年は岩が剥がれ落ち、形が違っているが、水質に変わりはない。冷たい水に一瞬言葉を失い、うめき声しか出ない様子をビデオカメラに収める。この先は雲が次第に薄くなり日差しが出てきた中、掘れた道を登り、09:50〜10:06三本カンバ(仮称)に到着すると、目の前に飯豊山と石転ビ雪渓が広がり、見事な展望を心ゆくまで楽しむ。ここまで登ってくると花の種類も次第に多くなる。ミヤマクルマバナ・ミヤマコウゾリナ・ヤマハハコ・シロバナニガナ・ハナニガナ・オクモミジハグマ・ハクサンボウフウ・ミヤマカラマツソウ・モミジカラマツが咲いており、1,600mにはまだ残雪が残っていた。ただしこのトットビ沢源頭の雪渓は、滑ったら重大事故に直結する場所なので、近づかない方が無難である。
10:32〜51梶川峰(標柱)で休憩する。SPO2と脈拍数はA(83/130) E(未測定/149)、83は下界なら酸素吸入が必要な数値である。登山におけるSPO2は今後もう少し勉強してみたい。ともあれここからは高山植物のお花畑となる。オヤマリンドウ・ミヤマアキノキリンソウ・ミヤマリンドウ・ツルリンドウ・クロヅル・ニッコウキスゲ・ヨツバシオガマ・イワイチョウ・シロバナニガナ・ハクサンフウロ・ハクサンボウフウ・クルマユリ・タカネマツムシソウ・オンタデ・トキソウ・コゴメグサ・チングルマ(盛)・ヒメサユリ・イワカガミ・キンコウカ・ハナニガナ・ゴゼンタチバナ・タカネヨモギ・ミヤマホツツジが咲く中、展望を楽しみながらのんびりと稜線漫歩である。
11:40〜12:08扇ノ地紙で休憩とする。稜線には、マイヅルソウ・チングルマ・ヨツバシオガマ・イワイチョウ・アオノツガザクラ・ハクサンボウフウ・ニッコウキスゲ・ヒメサユリ・ミヤマコウゾリナ・ミヤマアキノキリンソウ・シラネニンジン・ヤマハハコ・シロバナニガナアカモノ・ハクサンフウロ・ミヤマクルマバナ・タカネヨモギ・クロヅル・タカネツリガネニンジン(始)・タカネマツムシソウ・マルバシモツケ・ミヤマシシウド・クルマユリ・エゾイブキトラノオ・トモエシオガマ・オンタデ・ミヤマキンポウゲ・ヒトツバヨモギが咲いていた。12:38門内小屋の管理人に挨拶して通過する。ハクサンシャクナゲ・チシマギキョウ・タカネサギソウ・マルバダケブキ・コゴメグサ・イイデリンドウが咲いている。いよいよ北股岳の登りにかかる13:14〜30休憩して腹ごしらえをする。ウメバチソウ・ミヤマホツツジ・ミヤマダイコンソウが咲いている。14:00〜11北股岳に到着する。石転ビ沢を覗き込むと、石転ビノ出合(門内沢出合)を過ぎた左岸寄りの雪渓がかなり崩壊しているのが確認できた。イワオウギ・クルマユリ・ヤマハハコ・ミヤマクルマバナ・エゾイブキトラノオ・ミヤマコウゾリナ・タカネヨモギ・ヨツバシオガマ・ニッコウキスゲ・ミヤマホツツジ・ヒナウスユキソウ・タカネマツムシソウ・ミヤマアキノキリンソウ・ミヤマシシウド・シラネニンジン・イイデリンドウ・ハクサンフウロウ・タカネアオヤギソウ・タカネナデシコ・エゾイブキトラノオ・タカネサギソウ・コゴメグサ・チシマギキョウ・タカネツリガネニンジン・タカネヨモギ・マルバダケブキ・ハクサンフウロ・ムカゴトラノオが咲く中、14:39梅花皮小屋に到着する。
29日は、ご来光時は天候が良かったが、05:40梅花皮小屋を出発する時から雲の中となった。06:03梅花皮岳通過し、06:25〜31烏帽子岳で休憩する。クサイグラ尾根への降りは素晴らしいお花畑で、オタカラコウ・ミヤマアキノキリンソウ・ニッコウキスゲ・ミヤマコウゾリナ・ハクサンフウロ・ミヤマクルマバナ・ヤマハハコ・ミヤマキンポウゲ・ハクサンボウフウ・エゾイブキトラノオ・ミヤマアキノキリンソウ・ウサギキク・ニッコウキスゲ(盛)・ヨツバシオガマ・クルマユリ・ミヤマダイモンジソウ・ミヤマコウゾリナ・タカネヨモギ・イワオウギが咲いている。クサイグラ尾根分岐を過ぎると、チングルマ(盛)・アオノツガザクラ・イワイチョウ・マイヅルソウ・タカネマツムシソウ・マルバシモツケ・ヒナウスユキソウ・キオン・トモエシオガマ・タカネツリガネニンジン・タカネナデシコ・イワテトウキ・エゾイブキトラノオ・ミヤマホツツジ・シラネニンジ・イブキジャコウソウを楽しみ、07:01〜09亮平ノ池で休憩する。ノウゴウイチゴ・ハクサンイチゲ・シナノキンバイが咲く中、07:28〜38御手洗ノ池で休憩、キバナコマノツメ・ミヤマツボスミレが咲いている。07:44〜48無線機のアンテナを忘れたので御手洗ノ池まで取りに戻る。数箇所雪の上を歩くが、凍っている所があるので注意すること。
08:11天狗ノ庭は新道を通過し、08:40〜49天狗岳でSPO2を測定したところD(80/142)の値が出たので驚く。体調は全員良好である。ハクサンイチゲ・チングルマ・イワイチョウの咲く中、09:05〜22御西小屋に到着し管理人のZWWにお茶をご馳走になり、大日岳に向かう。視界はないが、コゴメグサ・ニッコウキスゲ・シロバナニガナ・ミヤマキンポウゲ・ミヤマクルマバナ・ミヤマホツツジ・ハクサンフウロ・ミヤマアキノキリンソウ・オトギリソウ・ヤマハハコ・ヨツバシオガマ・マイズルソウ・ハクサンイチゲ・チングルマ(盛)・イワカガミ・ハクサンコザクラ・モミジカラマツ・ゴゼンタチバナ・イワイチョウ・マルバシモツケ・イワテトウキ・ハクサンボウフウ・ハクサンオミナエシ・トモエシオガマ・シラネニンジン・ハクサンフウロ・クルマユリ・ハクサンシャクナゲ・タカネアオヤギソウ・タテヤマウツボグサ・イワハゼ・イワオウギ・ミヤマダイコンソウ・ウサギキク・ミヤマリンドウ・ミヤマダイコンソウ・ウメバチソウ・コケモモが咲いている。イブキジャコウソウに似た白い花を見つけて喜ぶ。途中でカッパを着るが雨はすぐに止んだ。10:41大日岳に到着、一人でオンベ松尾根を下る。10:44惣十郎清水を確認する。残雪はあと1〜2週間といった所であり、残雪がある間のみ融雪水が利用できる。10:49〜57大日岳に戻る。ハクサンシャクナゲが見事である。
11:59〜12:34御西小屋に戻る。イワイチョウ・ヨツバシオガマ・アオノツガザクラ・ハクサンボウフウ・ミヤマキンポウゲ・ミヤマアキノキリンソウ・チングルマ・イワカガミ・ニッコウキスゲ(盛)・イワハゼ・ウズラバハクサンチドリ・ヒナウスユキソウ・ムカゴトラノオ・ミヤマホツツジ・ミヤマコウゾリナ・ハクサンフウロ・イイデリンドウ・オンタデ・タカネニガナ・コバイケイソウ(1本のみ)・ミヤマリンドウ・ウサギキク・ガクウラジロヨウラク(末)・マルバシモツケが咲いていたが、草月平のニッコウキスゲは特筆に価する。玄山道分岐から旧赤谷登拝路に入り弘法清水を確認するがまだ雪に埋もれていた。13:20その少し先の清水で水を補給し、雪を取る。この頃になると視界が徐々に開けてきた。13:54玄山道分岐に戻り、VQOと無線が繋がる。缶ビールを冷えたものと交換してもらうこととし、ビールを冷やすために取って来た雪を捨てて身軽になる。駒形山の登りになると乾生のお花畑になり、オヤマノエンドウ・コゴメグサ・ヒナウスユキソウ・シラネニンジン・ムカゴトラノオ・チシマギキョウ・ミヤマアキノキリンソウ・タカネサギソウが咲く中、14:34〜50飯豊山に到着。梅花皮小屋から何となく一緒の伴場さん一行と記念撮影をする。伴場さんは明日ダイグラ尾根を下山するとのことであった。15:07本山小屋に到着した。
30日は、06:31本山小屋を出発する。視界はあるが、大日岳は雲の中である。06:37〜49水場で水を補給する。ミヤマホツツジ・ヤマハハコ・ミヤマアキノキリンソウ・マルバシモツケ・ミヤマコウゾリナ・ハクサンニンジン・ミヤマハタザオ(盛)・ヒメシャジン(盛)・ムカゴトラノオ・ヒナウスユキソウ・イワテトウキ・タカネマツムシソウ・ヨツバシオガマ・オヤマノエンドウ・コゴメグサ・タカネサギソウ・ハクサンフウロ・クルマユリ・イワオウギ・オンタデ・ハクサンオミナエシの咲く中、下山をする。先に団体ツアー一行がいる為、御秘所で順番待ちとなる。07:51草履塚を通過し、07:57〜08:15チングルマに囲まれて、残雪で氷水を楽しむ。登山道に僅かながら水が出ていたが、あまり当てにはならない。チングルマ・タカネマツムシソウ(盛)・シオガマギクの咲く中、08:25〜39切合小屋に到着する。管理人の長谷川氏と佐藤さんと立ち話をし、7月中旬の事故の話をお聞きする。石転ビ沢を登ってきた女性が、駒返し(七森)の鎖場で潅木を掴んで下ろうとした時、潅木が抜け落ち転落、居合わせた方々が三国小屋に搬送し、ヘリで救助したが残念なことに亡くなったとのことであった。
切合から地蔵岳に向かいすぐの小沢(切合小屋の水源)に残雪がたっぷりと着いている。結構な急斜面で雪も硬く、滑落すれば重大事故になる。残雪を巻くように微かな踏み跡があるが、これも足場は不如意である。08:46〜58残雪をカッティングして足場を作り、その下で滑落時に備え横断する。ピッケルなしで登ってくる登山者が多かったがそのうちに事故が発生するのではないかと心配である。快適な小沢を過ぎて尾根に取り付き、ハクサンオミナエシ(盛)・ミヤマコウゾリナ・ミヤマホツツジが咲く中を下る。09:32〜10:01御沢分レで急遽、穴堰を見学に行くことになった。遠望すると御沢の雪渓は滝が出ていて通過できない。KDGのOTL一行とすれ違いコースを助言する。ママコナ・オトギリソウ・タカネツリガネニンジン・コゴメグサ・タカネマツムシソウ・ウメバチソウ・ノリウツギ・ハナニガナ・ニッコウキスゲが咲いている。10:40〜11:00目洗イ清水で休憩。水は細くコップも持参したほうが良い。水場には猿の群れが出てきた。登山道の途中には猿の糞が点在していた。11:51〜12:13地蔵岳々頂にはセンジュガンピが盛りであった。ツルアリドウシ・ハナニガナ・シロバナニガナの咲くブナ林を下っていると、テレビ撮影一行と出会った。修験者の格好をした出演者がおり、昔の様子を復元しているとのことである。13:03〜24休憩し、13:38〜48長之助清水で喉を潤す。ザンゲ坂も難なく下り、14:21大日杉小屋に到着した。

五郎清水で乾いた喉を潤す 三本カンバから石転ビ沢上部
チングルマの咲く梶川尾根 門内岳と門内小屋
ここから北股岳の登りとなる 北股岳山頂から石転ビ沢下部
梅花皮小屋から石転ビ沢上部 烏帽子岳・クサイグラ分岐間の花畑
残雪の上を歩く 草月平は一面のニッコウキスゲ
イイデリンドウ 駒形山から飯豊山を目指す
飯豊山々頂にて伴場さんパーティ 本山小屋で乾杯
御前坂を下る 御秘所のハクサンオミナエシ
御秘所を下る 草履塚を登る(背景は飯豊山)
チングルマに囲まれて氷水を食べる 滝が露出した御沢コース
穴堰に先人の苦労を偲ぶ 目洗清水の猿の群れ
ザンゲ坂を慎重に下る 大日杉小屋に全員無事到着