登山者情報681号

【2003年01月09日/大境山(1102m)/吉田岳調査】

 滅多にないすばらしい快晴である。放射冷却により特に置賜地方では各地で−10℃台を観測したようだ。朝8時過ぎに自宅を出発。半分開けたままになっていた車の窓が凍ったまま閉まらず、寒いがそのまま走る。大境山は,2年前の4月に山スキーで一度滑っているため多少安心感はあるが、久しぶりの登山と初スキーに体力的な不安を覚える。
 9時30分、玉川地区中田山崎の酒屋さん向かいの車待避所より出発する。マツトリ沢左岸をシールで登り始め、そしてすぐ狭い中峰道に取りつく。後はしばらくこの中峰を登って行けばよい訳だが、少雪のため薮が多く歩きにくい。この薮と急登のため、数回壺足にならざるを得なかった。標高550m辺りから中峰は消え、山腹の急登になる。日が高くなるにつれ気温は急上昇していく。汗の量が増え、更にはシールに雪(ぼっこ)がつき始める。暑さと疲れのため、樹林帯がなくなる前に昼飯にした。
 ここまで既に2時間半以上かかっている。4月に来た時には3時間で登頂している。それに比べるとはるかに遅い。今回は登頂にこだわらず、行ける所まで行こうと考えた。ここからはスキーをザックに刺しスノーシユーで登り始める。ぼっこでスキーにならないからである。森林限界を超えると一面直射日光の世界となった。空はまだ快晴。光を遮るものは何もなく、私は帽子にサングラス、さらにタオルで顔を覆う。時々雪の中に顔を埋めた。私の経験からは日焼け、雪目に対し、どんなお薬よりもこれが効く。標高840峰からは雪が軽くなり始めたため、シール歩行にまたもやチェンジ。ここに来て始めて、真っ白な山頂を拝むことができた。バックにそびえる飯豊連峰に見劣りしない程その姿は美しい。しかし時は既に13時を過ぎていた。ODDに無線で行動状況を連絡する。
 870m峰から少し下り、大セド峰への道を選ぶ。これは谷を超えての南道の方が傾斜が緩いが、谷の雪量が少なく登り返しがきつそうなためである。さらに大セドからの急斜面は雪崩の心配が少なさそうに見えたためでもある。しかし実際にはこの急斜面を登りきって稜線に出ようとした時、ちょっとした事件が起きた。先に言っちゃうと、クレバスに落ちてしまったのである。斜面の雪が下に引っ張られるために、特に尾根直下の急斜面にはよくあることだが、「この時期に、こんな所で」という読みの甘さがあった。2m50cm程の深さであったが、上方の雪が落ちてくれば潰されてしまう。慌ててスキ−とザックを外し、壁に立て掛ける。そしてキックステップで這いずり上がり、外に出てからスキーを取り出した。改めてスキ−を装着しルートを考える。しかし、どう見てもこのクレバスを越えるしか道はなかった。「もう落ちたくはない」。一番安全そうなところをクレバスに直角にスキーで慎重に乗り越え、稜線に出た。山頂は目の前。おそらく20分ほどで行けそうだった。しかし、現在既にリミットタイムの14時30分!クレバスに落ちたという自戒の意味も込めて、ここでUターンすることにした。
 上空は雲で覆われ始めた。飯豊、朝日もはっきりとは見えなくなってきた。蔵王から栗駒にかけての奥羽山脈だけは西日に映えて美しい。14時45分、滑降開始。稜線、そしてクレバス、急斜面と重い雪にヒィヒィ言いながら滑り降りる。870m峰への登り返しはこのコースの唯一の欠点である。そして、リッジを経て急斜面。森林が出てくる標高700mくらいまでは、豪快なアルペンチックさを味わえた。後は更に重くなった湿雪を、樹木や薮の合間を縫って滑る。なかなかてこずらされながらも、16時麓に辿りついた。

玉川集落から望む大境山
県境稜に出て大境山を見上げる
飯豊連峰が広がる
朝日連峰を遠望する