登山者情報811号

【2004年05月16日/西俣尾根枯松峰/井上邦彦調査】

西俣尾根は以前営林署の管理道であったが、手入れがなされないため、このままでは危険と判断し廃道扱いにしている。冬期間に小国側から飯豊連峰に入ろうとした場合、最大の難関は大渕から天狗平までの雪崩対策である。地元では温身平の取水口から戻るために、長者原発電所までの導水路を閉鎖して通行したという話も聞いたことがある。私は昔、雪崩を避けるために数回の本流渡渉を繰り返して入山した記憶もある。このような条件下において、西俣尾根は雪崩の危険性が殆どない、冬山から春山にかけて最も頻繁に使用されている尾根である。なお私は西俣尾根で雪崩事故による死者を背負っているが、彼はイリタイラ尾根を目指して広河原に下り、引き返す途中で雪崩に飛ばされたものであり、尾根上で雪崩が発生した訳ではない。
民宿奥川入から車道を進むシモカバタ沢左岸の急な枝尾根を登るが、昔の地形図は尾根が1本誤って記載されていた記憶がある。取り付きは分かりにくいが、尾根にはしっかりとした道がある。急峻で両手を使って岩場を越えるような所も数箇所あるが、ここで根を上げるようではこの尾根は歩けない。むしろスキーを背負ってこの枝尾根を下る時、急すぎてスキーのテールが地面を擦ったり突き刺さって、横転しやすい。
主尾根に出ると快適な道が西俣ノ峰まで続いている。と言っても、私が通る時は何時も雪に覆われており、数十年ぶりの夏道であった。西俣ノ峰から先は踏み跡が微かに残っている程度であり、無雪期に入山するのは冬山の荷揚げパーティぐらいなものであろう。
冬季から春季にかけて使用されるこの尾根の最大の危険性は三匹穴周辺のホワイトアウトである。5月連休だったと思うが、頼母木山直前の騙し峰でルートを失い、命を失った登山者の遺体を収容した記憶がある。
次の危険性は枯松峰からオオドミの間の雪庇である。ここの雪庇は崩壊しやすい。さらに風上は殆ど雪が積もらないため藪漕ぎを余儀なくされる。最近はスキーが軽量化されビンディングや登山靴(兼用靴)の性能が大きく進歩したため、山スキーで入山する登山者が増えている。このコースは、山スキーにとって大変に魅力にとんでいるのだ。ところが一方、山スキーにとってこの危険地帯の通過が最大の難関になっている。昔に比べ積雪量が少ないのでさらに危険性と困難性が増している。今回の山行は、この危険地帯の安全なコース設定を探る目的で実施した。
民宿奥川入に車をお願いして06:54歩き出す。畦道から杉林に入りそのまま車道を進む。周囲には美味そうな蕨がびっしりと生えている。蕨があるのは私有地であるから、通常の山菜と同じような感覚で採ってはいけない。
シモクワバタ沢に出る。雪がなくなると、何時のも感覚と異なり登り口が分かりにくい。付近にはウワズミザクラやフジが咲いていた。フジは山奥ではあまり見かけない。AXLによればブナ帯よりも下部の植物らしい。尾根に取り付くとオオイワカガミ・ヤマツツジ・ムラサキヤシオが眼を楽しませてくれる。小雨なので迷う所であるが、多少の藪でズボンが濡れるためカッパを着る。07:32分岐を通過し主尾根を登る。GPNが空腹を訴えたが、池まで我慢してもらうこととした。数箇所雪が出てきたが何と言うこともなく、急斜面を登りきると平坦になり、07:56-08:07池に到着する。池は雪に埋まっており、一面雪原。小雨を避けブナ樹の下で休む。08:22から雪の上を歩く。夏道と雪道を進む。途中5分ほど休む。
08:59-09:08西俣ノ峰山頂で食事を摂る。天候は相変わらずの小雨。この先は雪庇の名残が多く残っている。雪庇の下部が思った以上に安定していたので、可能な限り雪の上を歩く。数箇所、微かな踏み跡を探しながら尾根上を歩く。枯松峰の登りになると、大きな雪原が広がり、マンサクが咲いている。杁差岳を始め、主稜線は雲に隠れている。
09:47-13:35枯松峰にザックを置き、オオドミ手前の鞍部までコースの確認を行う。山頂に戻り雪の上にツエルトを張って、ラーメンを煮る。濡れた地下足袋が冷たい。
下山も雪庇を渡って、14:28西俣ノ峰を通過し、14:55-15:02池で休憩を取る。ツクバネウツギやアズキナシが咲く中、15:38取り付きに到着。奥川入で今回の山行を終了した。
今回のコース

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