会員の山行 177号

【2010年03月14日〜15日/谷川岳東尾根、一ノ倉尾根/吉田岳・金野伸調査】

 今回の谷川岳雪稜登攀は、1日目はLTQを隊長にAXLとWKBの3人パーティーで東尾根を、AXLとWKBはそのまま居残り2日目に一ノ倉尾根を登攀するという計画である。小国と新発田から別々に車を出し、19時30分にみなかみ町ベースプラザに集合した。週末プラス晴れ予報ということで、かなり人が入っていた。登攀目的だけでなく、スキーヤーやボーダー、写真家、一般登山や雪訓目的など、様々な人達である。一通り準備を行い、天気祭りをして、22時過ぎに就寝。
  【3月14日(日)】
 3時20分起床。3時近くまで天気祭りを行なっていたパーティーがいたようで、早起き組と入れ替わりで寝たという、なんともツワモノと言うか・・・、楽しみ方は人それぞれのようである。4時出発の予定でいたが、どうも天気がイマイチのようで30分延長してから出発した。ヘッデンを点けて歩き出す。星が出ているようにも見えたが次第に雪になり、風も相変わらず強い。
 1時間ほどで一ノ倉沢出合いに到着。ここは相変わらず恐ろしい風景である。この風景を見ても恐ろしいという感覚が起こらない日がいつか来るのだろうかと、毎回思わされる。ヘッデンを外しアイゼンを装着し、30分ほどで再び出発。本谷から一ノ沢へ。シンセンのコルを目指し、ひたすら登る。風雪が体温を奪い、歩いても歩いても暖かくならない。稜線は相変わらず雲の中だ。7時20分シンセンのコルに到着し、LTQを待つ。コルは意外と狭く、風の通り道になっていた。ここで待機していた5人パーティーが、諦めて退却していった。さらに2人パーティーも下っていった。そこにLTQが到着。「今日は晴れる予報なのに、おかしいなー・・・」。AXLとWKBの目が自然とLTQを見てしまった。「えっ、やっぱり俺が悪いの・・・」と自覚しているLTQ。そんな中隣で待機していた2人組が出発を決意。それに促され我々も出発を決意、東尾根を登り始めた。途中で2人組を追い抜くと昨日のトレースがわずかに残っている感じで、やはり人のトレースを歩くよりは気持ちがいい。視界は10mも無いが風は少し収まってきたため、何とか山頂まで登れるような気持ちになってきた。ルートはほとんどが綺麗な雪稜で、硬い雪面にバイルのピックが気持ちよく刺さり、非常に楽しい。雪稜としては八ヶ岳よりはるかに魅力的な感じである。視界が効かないのは残念だが、お陰様で(?)ロープを出さずに第一岩峰まで来てしまった。
 第一岩峰は右から巻いているトレースがあるが、そちらも出だしが少し悪そうである。岩自体は下から見るとホールドがありそうに見えたため、岩を直登することにした。まずAXLがリードで取り付く。しかし、ホールドに見えた岩はガバではなく、角度も悪く滑りそうで怖い。しかもハング(被)っており、気合を入れて登り切った。岩の上部には手頃なビレー点がなく、そのまま雪稜を登った所で潅木にビレーを取り、フィックスロープとした。大声で「登っていいぞ」と叫ぶと、かすかに返事が聞こえた。しかし、待てども待てども後続が来ない。寒さに耐えながら、ガスの中にWKBが登ってくるのを今か今かと待っていたが、ロープに動きが全くない。まるで釣り人の気分である。しばらくして脇道から登ってきたガイドらしきおじさんとクライアントらしきお姉さんと話しこみ時間をつぶす事ができたが、結果的にはここで1時間も待たされることになった。原因は色々あるようだが、まず私が登る前にロープのシステムを言わなかったため、後続が「何故ロープアップしないのだろう」と戸惑ったらしい。ロープ1本で3人が登るため、当然フィックスをしてセカンドはユマーリングと私は思ってしまったのだが、考えれば本チャンでこのシステムを使ったことはなく、やはり思い込みをせず話し合いが大事と反省。もう一つに、ロープを30m先も延ばしたために伸びが多く出てしまい、さらに被っていたためロープを引っ張りながら登ることもできず、登攀に苦労したようだ。これも岩を登った所で一旦切ればよかったと反省である。
 ともあれ、待っている間にやっと天気が回復し、見事な風景が広がってきた。時間的にもまだまだ余裕がある。仕切り直して最後の雪壁に向かった。背後には登ってきた美しい雪稜が伸びる。最後の雪庇を乗っ越すと、谷川岳山頂に出た。するとそこにはロープウェーからやってきた人達で賑わっており、こっちも驚いたが向こうも驚いた様子だった。11時25分、WKBとLTQも到着して握手を交わした。風はやや強いが、360度の視界を堪能し、記念写真。下山を開始する。
 トマの耳を越えた辺りから風も収まり、やけに暑くなってきた。服を脱ぎ、水分を補給して、ゆっくりと天神尾根を下っていった。13時、スキー場に到着。なんとも豪勢なスキー場である。あとはロープウェーでベースプラザへ。登山終了とした。
 【3月15日(月)】
 ベースプラザにて3時30分起床。今日は間違いなく晴れ。4時10分、放射冷却で冷え込む星空の元、ヘッデンで道を照らしながら出発。1時間で一ノ倉沢出合いに到着し、準備を行い、5時40分出発。一ノ倉尾根は沢の左岸に伸びる尾根で、出合いすぐからでも取り付けそうだったが、トレースを期待してしばし本谷を上がっていく。すると期待通りに衝立前沢手前の尾根にトレースを発見。ありがたくこれを使わせていただく。
 一ノ倉尾根に合流後、岩峰左脇の堅雪のルンゼを詰め、リッジに出る。幽ノ沢と左岸岩壁が見渡せた。どうも今年は雪の量がだいぶ少ないようだ。雪稜コースとされている尾根に雪がなく、藪尾根に見える。この一ノ倉尾根は綺麗な雪稜コースではなく、岩や草付き、ルンゼを含んだ変化のあるコースとされているが、それでも資料で見たよりは藪や岩の部分が多いように思われた。所々にヒヤッとする箇所が出てくるが、距離が短いためにロープを出すわけにもいかず、やはりロープレスで行ける仲間とでないとなかなか難しい所のようだ。目の前に核心部となる岩場が現れてきた。
 岩場はホールドが少なく、アブミを使った人口登攀から始まるようだ。気温はぐいぐいと上がり、目出帽と上着を脱ぐ。岩壁には雪が付いてなく、「素手で登ってもいいっすかね?」とWKBに言われたが、ここは手袋+アイゼンで登る冬期登攀ルート。「やっぱ手袋を脱いじゃだめでしょう」と言い返した。と言いつつも、途中のハーケンがグラグラしており、その抜けている部分でややヒヤッとさせられた。30mほどでビレー。WKBに登ってきてもらう。「ノーテンションで登れましたよ」と言うWKBの手に、手袋は着けられていなかった。その上の草付きは問題がなく、さらに岩稜を越え、幽ノ沢源頭部のルンゼを登り、再び一ノ倉尾根へ。最後は雪に埋まった笹薮の上を歩き、11時20分ひょっこりと一ノ倉岳山頂に出た。
 特別急いだつもりはないが、トレースが付いていたこともあり、かなり速いペースでこの尾根を登ることができた。でもここはもっと雪の多い時に山中一泊ビバークのプランで来る方が面白いかもしれない。ともあれ、一ノ倉尾根を登ることができたことに満足である。
 休憩の後、国境稜線を南に進む。天気はしだいに曇り始めトマの耳を越えた辺りからは突然ガスの中に入ってしまった。しかし、昨日に地形を把握していたので安心して西黒尾根の下山口を見つけることができた。トレースもかなり付いてある。メジャーな一般コースのようである。と安心していたら突然後方から「あっ」と言う悲鳴。振り向くとWKBがピッケルで滑落停止姿勢になっていた。聞くとアイゼンの雪団子でスリップしたらしい。「やっぱりアンチスノープレートを買います」とWKB。西黒尾根はやはり長く、なかなか高度が下がらない。途中で一回休憩を入れ、14時ベースプラザに到着した。車に乗りこむと雨がぽつぽつと降り出してきた。

 【14日東尾根】
 ガスの中の一ノ倉沢奥壁
 
 明日予定の一ノ倉尾根
 
 一ノ沢を詰める
 
 東尾根登攀開始
 
 視界がない中の登攀
 
 後続をひたすら待っていると・・
 
やっと晴れ、WKBのVサイン 
 
 LTQも登ってきました
 
あとは最後の雪璧
 
 WKBも気分良さそう
 
頂上直下です 
 
 ひょっこりWKB
 
 LTQは意味深の笑みです
 
【 15日一ノ倉尾根】
 核心部の岩場
 
 岩登りの準備を行うWKB
 
岩場をクリア 
 
上部の岩稜帯 
 
 ルンゼをひたすら詰める
 
左手に谷川岳山頂 
 
登頂です 
 
一ノ倉岳にて、失敗です
 
 我ら小国山岳会♪♪
 
 突然ガスの中に
 
 西黒尾根を下る
 
関連サイト
日々是好日(LTQ)