会員の山行 182号

【2010年04月07日〜08/鹿島槍ヶ岳東尾根/吉田、金野調査】

 北アルプス後立山連峰にある鹿島槍ヶ岳東尾根と白馬岳主稜というアルパインクライミングのクラシックルートに、AXL・WKBで登ってきた。今回はこの2つの雪稜ルートを二日ずつ続けて登り、それぞれ頂上からの下山は最短の雪渓コースではなく周遊して下りてくるという負荷をかけ、体がどれだけ持つのかというのを試したいという狙いもあった。まずは、鹿島槍の報告から。

 4月7日、朝3時に小国を発ち、胎内ICで高速イン。糸魚川市で高速を下り、白馬村を越え、大町市へ。登山口となる大谷原には8時30分ころに着いてしまった。ETCの平日深夜料金狙いで早く出たのだが、今日の登山行程は5時間ほど。予定しているテン場から上にはテントを張れる所が無さそうなため、その先には進めないのである。天気は小雨で時々雪が混ざる感じだが、夕方には止む予報である。車の中で時間調整をした後、10時からゆっくりと準備を行い、11時に出発をした。
 林道を歩くと、程なく東尾根が現れた。しかし取付きは雪が消えて藪になっていたため、少し回りこんで雪渓の残っている所から斜面に入り込む。30分ほどで立派なクロベの木が立ち並ぶ尾根筋に合流した。最近積もった雪が意外と深く、先頭を交替しながらラッセルで進んでいく。少し急になってきた所で、ストックからピッケルに持ち替えた。
 13時30分、一ノ沢の頭着。天気は回復せずに小雪が降り、視界もあまりない。ここからテン場となる二ノ沢の頭までは痩せ尾根となり、雪の状態も良くはない。そんな中、下り斜面でAXLが隠れたシュルント(雪の割れ目)にはまり転倒してしまった。はまった瞬間には踏ん張れると思ったのだが、荷物が重く耐え切れなかったのである。急斜面でなかったのですぐに止まったが、ヒヤッとさせられた。すぐさま、ロープを出すことにした。このシュルントにはこの先もかなり悩まされ、痛い目にもあってしまうことになる。16時二ノ沢の頭に到着。上方には核心部となる山頂直下の斜面、下方には大町方面の様子が見渡せ、平らでもありテント場としては最高の所である。スコップで整地して周囲にはブロックを積み、テント設営を行なった。テントが小さいため使わない荷物は外に出し、なるべく快適なテント生活を送れるようにする。WKBは少し調子が悪いようで、体がしびれる感じがして寒いと言い、早くもダウンを着込んでいる。WKBは前回白馬に行った時も風邪をひいて調子を崩したことがあり、「後立(山連峰)とは相性が悪いんじゃない?」と茶化したが、久しぶりの重装備など複合的な理由からであろう。

 8日、4時起床。小雪は結局夜半過ぎまで降り続いたが、朝方には放射冷却になって−10度位まで冷え込んだ。テント内側の霜を取り、朝食の準備を行う。外は快晴。日の出と共に6時に出発した。もたもたしていたため、予定よりも遅れての出発になってしまった。山頂までの斜面は目の前にすごい迫力で迫ってくる。ただ遠近感が分からず、ルートがどこになるのか良く分からない。基本的には尾根筋になるので、行ってみれば分かるだろうと進んでいった。所々、転ぶとやばい場所でロープを出し確保しながら登っていく。WKBは今日も調子が上がらずに遅れ気味であるが、AXLがロープの準備やルートを探しているうちに追いついてくるので、それ程支障はない。しかし第一岩峰でトップをしてもらった時は、スピードが上がらず、滑り落ちてきそうになった。「バテてもいいけれど、緊張力は持てよ」と言うと、「それを言うなら集中力でしょう」と返してきた。う〜ん、この男まだまだ行けそうである。
 10時30分、核心部となる第二岩峰に取付く。左上するルートは下から見た時はたいしたことはないと思ったが、中途半端に残る雪塊が崩壊しそうなため、逆に右手の急斜面から登っていき、ピークで確保。後はナイフリッジをがんばって登りきり、12時鹿島槍北峰に到着した。山頂からは素晴らしい景色が広がっていた。二人で感動しつつ、写真撮りなど一連の儀式を済ました。予定よりは遅れているが、何とか今日中に帰れそうである。
 しばらくは稜線闊歩が続く。13時30分、鹿島槍南峰着。その下りで先頭を歩いていたAXLが隠れていたシュルントに落ち、アイゼンを履いていた足が落ちた穴の中の岩に引っかかり足首をくじいてしまった。激痛が走る。「やべー、捻挫かなー」。しばらく動かずに、WKBが来るのを待つ。しかしそうしているうちに痛みが少しずつ消えていった。WKBに「たぶん大丈夫そうだから、5分ほど休んで追いかけるよ」と伝え、ゆっくりと先に行ってもらう。すると本当に痛みがほとんど消えて言った。「どうなっているんだ俺の足は」。反則を受けてかなり痛そうにしているサッカー選手が、その後すぐに走り出す場面を思い出す。                                                
 ともあれ、ゆっくりとWKBを追いかける。布引山を越え、冷池山荘を越え、爺ヶ岳手前の分岐から一般道の赤岩尾根を下りていった。中腹にはテントを張っている登山客がおり、トレースも結構付いていた。「後は大丈夫だろう」とアイゼンを外したが、これは結果的に失敗だった。尾根の下部は意外と急斜面で、針葉樹から滴り落ちた水や風のせいで雪面が硬くなっていたのである。高度が下がり調子を取り戻した感じのWKBからどんどん離されていく。17時過ぎにやっと林道に辿り着いた。WKBに「調子戻ったんじゃない?」と聞くと、「いや、やけくそですよ」とのこと。「やけくそになってパワーが出るのは若さの特権だよな〜。おじさんがやけくそになったら自爆して終わりだもんな〜」などと心の中で思ってしまった。
 さらに林道歩きも40分ほどかかり、18時、やっと駐車場に辿り着いた。WKBはビバークを覚悟していたようで「今日中に帰れてほんとに良かった」とほっとした様子。AXLも「明日は体が動くのだろうか」と不安を覚えつつも、とりあえずは急いで移動を開始した。結局白馬村まで行き、『倉下の湯』で温泉に浸り、『絵夢』で夕食を摂り、『アップルランド』で食糧を買い足し、『道の駅白馬』で車中泊をした。

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巨大なネズコが立ち並ぶ
小雪が降り続く
テント設営できました
日の出です
山頂がすごい迫力で迫る
これが登ったルートでした
うねる雪稜
スケールがでかいです
結構きついです
第二岩峰に立つAXL
山頂下のナイフリッジ
北方山頂に立つ
南方をバックに記念写真
北ア南部 奥に槍ヶ岳方面
五竜岳から奥に白馬岳
立山(左)と剣岳(右)
南峰からの下り(点線は赤岩尾根)