会員の山行 183号

【2010年04月09〜10日/白馬岳主稜/吉田、金野調査】

 9日5時30分、白馬村道の駅に止めた車内にて起床。体の筋肉痛に加えて顔の雪焼けも痛い。まずは車内でお湯を沸かしてテルモスにお茶を詰め、朝コーヒーを飲んでから出発。途中コンビニに寄ってから登山口となる二股に駐車をした。先客は3台ほどあった。
 7時30分、林道を歩き始める。暑くなることが予想されるため上着を着ないままであるが、除雪を終えた林道はさすがに所々凍っており、歩きにくい。除雪は途中までだったが、かえって雪の上の方が歩きやすかった。9時猿倉を通過。途中の沢で水を汲み足す。10時、白馬尻を越え、主稜の取付きに向かう。先行した2人組も主稜に向かったようで、ラッセル跡が続いている。ありがたくそれを使わせてもらった。
 11時、八峰手前で二人組に追いつき、ラッセルのお礼を言わせてもらう。関東から来たとのことだが、顔の黒さから結構山は登っているようである。「なるべく今日中に高い所まで行きたいね」と話し合う。八峰から上は自分達が先頭を行かせてもらう。なんか美味しい所だけ頂いちゃうようで申し訳ない気がするが、そこは先方も気にしていないように思えた。他パーティーと会うと、後を追っても先行しても気を使う感じで、何かおかしくも思える。
 下から主稜を眺めるとナイフリッジや雪壁が随所に現れるように見えるが、取り付いてみると意外と傾斜がゆるく、「ロープ無しでいいね」となってしまう。鹿島槍と比べると、岩場が少なく両側の傾斜もゆるいため、もし落ちても命に係わるような危険性は少なく感じられる。やはり新雪は積もっていて崩れやすい所はあるが、縦方向に走るシュルントは少なく、綺麗な雪稜を楽しむことができた。と言っても重い荷物にかなり息が上がる。今日は体力勝負のようである。
 15時になり、五峰辺りで二人組は「この辺でテントを張ります」と声をかけてくれた。「自分達は16時までもう少しがんばってみます」と伝え、登り続ける。だがスピードは上がらない。できれば二峰を越えたかったが、さすがに16時を過ぎてから危険な所に突っ込む勇気はない。三峰周辺のリッジ上(標高2600m)にテン場を作ることとし、荷物を置いた。
 AXLがスコップで得意の雪掘りを行い、ブロックで風除けを作る。その後テントを設営している時に悲劇が起きた。WKBがテントポールを落としたのである。斜面下を覗き込んでも見当たらない。AXLはさっさと諦め、何とかロープでテントを張れないものかと検討していたところ、WKBが斜面途中で引っかかっているポールを発見。クライムダウンで取りに行ってもらった。不幸中の幸い。忘れえぬ思い出となることだろう。帰ってきたWKBに「せっかくポールを新調してきてもらおうと思ったのに・・」と強気の冗談を入れた。
 無事にテント内に入り込み、まずはスープで暖まり、続いて焼酎のお湯割りでさらに暖まった。その夜は寝る頃になって風が強まり、テントが飛ばされないかと心配もしたが、それよりも睡魔が強くそのまま眠り込んでしまった。
 10日、3時15分起床。風は収まり、気温もあまり冷え込まなかったようで、テント内側には霜が付いていない。今日は17時から小国山岳会の総会があり、そこから逆算して行動しなければならない。下山は大雪渓を使えば早いのだが、やはり小蓮華山への縦走をしてから下りてきたい。となると、山頂には7時過ぎには到着しないと。朝食を済まし、暗い中出発の準備を行う。
  5時10分、ちょうどヘッドラが要らなくなり、出発を行う。クラストした雪面にアイゼンが効き、登りやすい。ただ、二峰までにはだましが多く、越えるのに1時間もかかってしまった。後は山頂までの雪壁を登り、最後に雪庇を越えると山頂である。稜線沿いに高さ3mくらい張り出している雪庇だが、南側がやや低くなっており、そこをどう越えるかが鍵となりそうだ。ここでこの山行初めてのロープを出した。まず、WKBにトップを行ってもらう。途中の支点を2箇所スノーバーで作り、40m行った所でビレー。その後AXLが登り、ビレー点を越え、雪庇の下を左にトラバース。しかし、低くなっている雪庇を間近で見たところ、このままではとても越えられそうにない。ハングっているのに加え、足場の雪が柔らかく、踏ん張ることができない。それでまず直下にスノーバーを打ってそこにザックを掛け、スコップを取り出す。それで雪庇の柔らかい雪の部分を取り除き、バイルのピックが効きやすいように、体が引っかかりにくいように、整形を行う。ザックはそのままにして、空身で雪庇を乗り越えると、まさにそこは有名なあの道標が立つ白馬岳の山頂であった。その後、WKBはザックを担いだまま登りきり、8時、登頂となった。
 鹿島槍に続き白馬も登りきることができ、WKBも相当嬉しそうである。ただ、時間があまりないため、写真撮りやギア類の回収などを急いで済ます。いよいよ下山の時になり、ちょっともめた。WKBは「もう時間がないから大雪渓をそのまま下りましょう」と言うが、AXLは稜線闊歩が捨てがたく、「う〜〜〜ん」と悩んでいると、WKBが「分かったよー」と諦め、小蓮華山への稜線を歩き始めてくれた。天気はほとんど快晴。「悪いね、付き合わせて」と思いつつも、やっぱりこの北アルプスの山々を眺めながらの稜線歩きは素晴らしいものである。小蓮華山を越えた辺りである考えが浮かんだ。「稜線歩きを終えたら、何も小蓮華尾根を忠実に下りる必要はない。その脇の沢を下りればかなり時間短縮ができる。」と。分岐まで来た時には9時30分を越えていた。白馬沢はやや危なさそうだったため、尾根を越えた先の金山沢を下りることにした。
  金山沢は適度な山スキーのルートとして利用されているようだった。上部はやや急だったためWKBは慎重に下りているが、AXLは大丈夫と判断し、尻セードーをスタート。尻セードーの大滑降である。これで一気にかなりの標高を下げられた。下の方になり傾斜がゆるくなると、さすがにラッセルとなったが、10時30分に白馬尻着。目標としていた12時着も見えてきた。AXLは安心して休憩を入れながら下山していったが、WKBはまたもやあっという間に見えなくなってしまった。猿倉を通過し、沢が出てきた所で給水と真っ赤に日焼けた顔を冷やし、上着類を全部脱いで再び歩き出す。駐車場着がちょうど12時だった。これにはさすがに自分ながら「よく時間通りについたな」と感心してしまった。更に早く到着していたWKBに「また最後はやけくそだった?」と聞くと、「今回はクライマーズハイでしたね」とのこと。後立山との相性の悪さは克服されたようである。2つの山を予定通りに登れたことに満足し、そのまま小国町へと向かった。
蟻地獄にはまるWKB
最初の雪壁に挑む
主稜が続く
ここにテン場を作りましょう
完成です
日の出前、出発準備
日の出をバックに黙々と登ります
朝焼けに染まる山頂をバックに
ナイフリッジも踏ん張り所
登ってきたうねる雪稜
最後の雪壁にWKB
こんな場面で雷鳥が(中央左)
登頂記念
今度は近くに来てくれました
主稜は山頂から中央左下に延びる雪稜
金山沢を下りていく
大尻セード滑降