会員の山行 第187号

【2010年05月02-05日/前穂北尾根、明神岳東稜/吉田岳・金野伸調査】

 今回はゴールデンウィークを利用し、北アルプスにある前穂高岳北尾根と明神岳東稜を狙ってみた。いずれも人気のあるアルパインルートであり、混雑が予想されるが、「一度は行ってみないと」ということで、AXL・WKBペアで向かってみた。
 5月2日。4時30分に小国を出発。高速を使い、少し渋滞もあったが、9時30分に沢渡駐車場着。ゆっくりと準備を行い、シャトルバスに乗り換え、上高地へ。上高地はやはり人で一杯だった。計画書を提出し、いざ出発。明神、徳沢園を越え、2時間ほどで横尾に到着。既にテントが一杯張られてあった。涸沢まで行ける時間はあったが、予定通り翌朝早めに出発して穂高ピストンしてくるということにし、テントを張り、早めにドリンキングを始めた。

 3日。3時30分起床。マカロニの朝食を取り、5時出発。2時間ほどで涸沢に到着した。相変わらず、素晴らしい景観である。既に北穂と奥穂の一般コースは行列になっていたことに驚いた。左手に連なる前穂北尾根への取り付きとなる5・6のコルへの道を探す。最初トレースは分からなかったが、すぐに立派なトレースと合流した。8時30分、5・6のコルに到着。ここから北尾根が始まる。まずは五峰を超える。すると、上部にけっこう登山者が入っていることが分かった。続いて四峰を超えて3・4のコルに下りると、核心部となる三峰への登りは順番待ちになっていた。これは最初からある程度覚悟してきたことなので、「仕方がない」と思い、コルでロープの準備をし、そしてお昼寝に入る。しかし1時間待てども動く気配がない。すると、前の男性3人組から「あなた達早そうだからお先にどうぞ」と譲ってもらった。ありがたく先に入れてもらう。しかしその前に年配の3人組、その前にガイド連れの2人組が、なんとも進んでくれない。さらに30分先待って、やっと順番が来た。最初はノーマルルートから取り付いたが、右手にルートが取れそうだったので、邪魔にならないようにそちらから前の3人組を、さらにガイド連れの2人組をそのまま抜かさせてもらった。この辺りはさすが北尾根という感じで、岩と雪のミックスを楽しむことができた。V峰から先はまたロープなしで登ることができ、12時30分、前穂高岳山頂に到着することができた。
 山頂で休憩を取り、タイマーで2人の写真を撮ろうとしていたところ、奥叉白から来たという3人組から声を掛けられ、撮っていただいた。さて、予定ではこのまま吊尾根の登り、奥穂高岳を越えて、白出のコルから涸沢に下りてくる予定だったが、そのコースだと横尾に着くのが17時を越えそうである。今日はさらに明神池まで行きたいので、可能ならば吊尾根の鞍部から直接涸沢に下りてみようと考えた。とりあえず鞍部に向かってみる。鞍部に着き、雪庇となっていない所から下を覗き込んでみると、何とか行けそうである。一応ロープを出して確保しながら2ピッチを下り、さらに少し下ってから、一気に尻セードで滑り降りていった。緩やかになった所からは駆け足気味に下り、14時、涸沢に到着した。ちょっと反則ではあるが、今日北尾根に入ったパーティーの中で、最後に取り付きながら、最初に下山してきたことになる。
 涸沢の人の多さに驚いたが、子供連れがけっこう多いのにも驚かされた。楽しそうにしている子と、辛そうにしている子と、やはり二通りいるようだった。14時、涸沢出発。15時、横尾着。すぐに片付けに入るつもりだったが、どうにものどの渇きを抑えられずにビールタイムになってしまった。16時、横尾出発、徳沢園を越え、明神池から少し森に入り込み、17時30分、幕営とした。

 4日。ちょっと寝坊して3時50分起床。急いで仕度にかかる。スープソーメンで朝食を取り、それでも5時15分に出発となった。歩いてすぐ、テント泊のパーティーに遭遇。聞いてみるとやはり明神岳東稜を目指すとのことだが、なんだかはっきりしない。その理由は後で分かるのだが、「その時正直に話してくれれば・・・」という事態に陥ることになる。この辺りから雪渓上にはっきりとしたトレースが現れ、それを辿っていった。AXLは今日中になるべく距離を稼ぎ、明日は早めに下山したいと言う気持ちが強く、どんどん先に進み、WKBとの差を広げていった。資料やGPSはWKBが持ち、AXLはトレースを疑わずにひたすら歩き続けて行ったのである。しかし、さすがに途中からどうもおかしいと思い始めたのだが、とりあえず尾根まで登っていった。
 尾根に着き、影側を見ると「あー、やっちまった・・」。どう見ても間違っている。WKBが来るのを待って資料とGPSで確認すると、やはりそうであった。WKBもAKLに声をかけるタイミングが無く、半信半疑のまま来てしまったようだ。「さてどうしよう」と検討した。このまま尾根を反対側に越え、雪渓をトラバース気味に降りて行けばコースと合流するはずである。気持ちを切り替え、そのルートで降りていった。30分ほどでコースに合流すると、朝に話をしたパーティーと出合った。「間違っちゃいました」と話すと、「実はそのコース、昨日自分達が間違って行った所なのです」とのこと。つまり、彼らの間違ったトレースをそのままいってしまったのである。「あちゃー」と思ったが、間違ったのは自分達。しっかりと反省しなければならない。
  9時30分、ひょうたん池到着。ここから東稜の始まりである。確かに他の尾根と違い、綺麗な雪稜が続いている。しかし山頂は見えず、所々に岩が出ていて、どこまでこの急峻な尾根が続いているのだろうと、恐怖心が起こってくる。しかも道間違いのせいで、かなり体力を浪費してしまった。慌てず、確実に登ろうと話し合った。
 雪稜は特に難しいところはなかったが、シュルント(雪の割れ目)や雪質が変わる所で足を取られると、重荷のため体を支えられずに滑落する危険性がある。しかしロープ無しでそのまま登り、12時15分、バットレスと言われる核心部の岩場直下に到着した。近くで見るとたいしたことのないように見えた。弱点となるのは右手の凹部だが、正面のクラックもカムがあれば楽しめそうなルートである。しかし、ロープを出して実際に取り付いてみると、やはり重荷+アイゼンでは思ったようなクライミングができない。ホールドが小さく、右足は一枚岩の上で安定させられない。それでも強がって、上部に垂れ下がっていたお助けロープは掴まずに、自力で登り切った。ここでまたロープをしまい、その上の雪壁はロープ無しで登る。稜線に出た所で、荷物を置き、明神岳山頂へは空身でピストンとした。13時30分登頂。かなりバテバテの感じで登ってきたつもりだったが、結果的には計画よりもかなり速いペースで登ってきたことになる。下であったパ−ティーは見えないが、おそらくバットレス基部に幕営するつもりであろう。
 写真を撮り、しばし穂高連峰の眺めを楽しんだ後、明神岳主稜の下山を始めた。ここも、急峻な尾根を五峰まで登ったり下ったりの繰り返しだが、一般コース的になっており、急な所には残置固定ロープが張られてあった。あこがれていた明神岳を登っているという喜びを感じつつも、さすがに疲れとの戦いとなった。4・5のコル辺りからテン場を探しながら行ったが、いい所がない。結局五峰までの縦走を終え、そこから少し南西尾根を降りたところの雪渓上にテントを張ることにした。残雪の雪解け水からそのまま水を汲めそうである。16時、行動終了。テントを張り、西穂高連峰を眺めながら、残ったウイスキーで乾杯となった。道間違いがなければ日帰りで上高地まで抜けられそうなペースだったが、やはり稜線泊はいい、と二人でなぐさめ合った。あとは翌朝に上高地まで下りていくだけである。
 
 3時30分起床。さすがに2,500mという標高+雪上ということで、寒い夜だった。シリアルで朝食を取り、出発の準備にかかる。今日はここから前明神沢への支流を降りて行き、岳沢から上高地へと向かう予定である。しかし、この名も知らぬ沢を降りていくことに不安を感じていない訳ではなかった。
  5時10分出発。沢の雪渓への入り口を捜す。最初は急である上に狭く、落石があれば逃げられそうもない。「下りていけばだんだんと条件は良くなるだろう」という甘い予想で下降を始めた。ヘルメットをかぶり、2人並んで慎重にダブルアックスでクライムダウン。状件は全然良くならないが、冷え込んだせいでまだ落石が起きる感じもない。途中から左にカーブしたので、落石の心配も少し薄らいだ。しかし、その先が見えない。降りてみると、案の定、崖になっていた。巻き道を行けなくもなかったが、それよりも潅木を使って懸垂下降したほうが確実である。ロープを出しその準備にかかった。支点が心配なので、先に荷物を降ろし、空身で下降した。前明神沢と合流し、あとは雪渓をひたすら降りるだけである。岳沢に合流。アイゼンを外し、一般道を進む。ここはさすがに登山客がちらほら見られた。
  7時40分、上高地に到着し、無事4日間の登山終了。シャトルバスは8時から運営していたが、ここで色々飲み食いをし、ビジターセンターを見学し、8時40分のバスに乗車。沢渡に着き、温泉に浸かり、小国に向かった。
明神岳を眺める
屏風岩
涸沢テント村が遠くに
北尾根X峰
V峰は渋滞
眠くなってきました
一気に上ります
前穂高岳山頂
涸沢に向かって駆け下ります
北穂をバックにテント村
ひょうたん池手前の登り
東稜登攀開始
前穂をバックに
核心部 中央の岩がバットレス
U峰(中央)、主峰(右)
バットレスを登る
最後の雪壁
登頂。奥穂をバックに
前穂をバックに
東稜をバックに
幕営 奥は西穂
名も知らぬ沢を降りていきます
最後は懸垂下降がでました