会員の山行 281号

【2013年06月02-04日/剣岳(赤谷尾根、北方稜線、早月尾根)/吉田岳調査】

 この時期はやはり剣岳へ行きたくなる。しかし今回は相棒が見つからない・・・。「それならば」とソロで行くことと決め、ルートも1ランク下げて赤谷尾根から入ることとした。それでもやはり、行ったことのないアルパインルートに単独で入るのは正直恐怖心が宿る。
 6月1日pm5時、小国町を出発し新潟から高速イン。滑川で高速を下り、そのまま馬場島を目指すもなんと通行止め。そこからぐるっと遠回りをして、11時近くになって馬場島到着。少々寝酒をして就寝。
 2日am4時起床。パッキングを行い、出発。赤谷尾根までの道は標識もあり分かりやすかった。池ノ谷方面への登山道は意外に整備されていてつついつい行き過ぎてしまい、適当な所から赤谷尾根へ藪の急斜面を直登していった。1200m辺りで踏み跡と合流。傾斜は緩くなったもの、そこからも藪地獄は続いた。赤谷尾根は特に雪が消えるのが早いようで、どうも来るのが少し遅かったようだ。1800mを越えた辺りでやっと雪面になってきた。トレースらしきものが見え期待したら、熊の足跡だった。歌いながら先に進む。最後の赤谷山への急登を越え、13時北方稜線に出た。藪漕ぎでラッセル時のタイム以上に時間がかかるかと思ったら、意外と早めに着いた。テントを張れるスペースがあるか心配だが、もう少し先まで進むことにする。それにしても進行方向に恐ろしい景色が続く。尾根というより険しい岩山がぽつぽつとそそり立ち、どこがルートになっているのか遠くから見た感じでは見当がつかない。14時30分、赤ハゲ山頂手前に幕営スペースを見つけた。できれば大窓まで行きたいという欲もあったが、やはり単独行は慎重に行きたいということと、実際体力的に結構きていて、さらにはガスも巻いてきたため、ちょっと早いが行動終了とした。スコップで整地と風除けを作り、立木を利用して細引きでツェルトを張った。軽量化のため寝袋も夏用で、やはり寒さに耐えながら夜を過ごすこととなった。
 3日、4時10分起床。夜中は寒くて眠れないと悶えていたが、結局寝坊。テント内に置いていた水筒が凍っていたが、風は無く外は快晴のようだ。急いで準備を行い、5時30分出発。ここからはアルパイン的なコースとなる。尾根通しの岩稜と側面の雪庇あるいは草付きにルートを探し、進んでいく。赤ハゲ、白ハゲを越えると、ここから急降下。7時30分大窓に到着した。さらに大窓の頭を目指し登り返す。頭の手前で岩壁が現れた。重装備を担いだままでは自信がなかったので、ザックを下ろし、まずはロープを垂らしながら空身で登っていく。上でロープを固定して懸垂で下り、再度ザックを担いで登り返した。反対側はまた岩壁になっていて、ロープを使って懸垂で降りた。さらに再び登り返し、11時池ノ平山に到着。剣岳へはまだまだ岩山が続く。ここからまた200mの下降。2ピッチロープで懸垂を行い、小窓に到着。ここから300mの登り返し。雪渓の繋がっているルートを見極め、ヒーヒー言いながら登っていった。今回は単独ということで逆に冷静に状況判断をすることができ、ほとんど読みが外れる事はなかった。しかし、疲れるのはコースのせいかそれとも年のせいか・・・。日差しと暑さでのども渇き、途中で雪解け水を見つけ補充した。14時小窓ノ王に到着。近くに見えていた池ノ谷乗越しはその間に三ノ窓という深い谷があることにその時初めて気が付いた。三ノ窓へは急な下降だったが雪渓を使いロープ無しで降りられた。三ノ窓で融雪水を発見。今日は池ノ谷乗越しまでと決め、ここで2,5Lの給水。荷は重くなるが、残雪から水作りに使うガスを節約し、夜中の暖房に利用できる安心には変えがたい。最後の250mの急坂を登り返し、15時45分池ノ谷乗越しに到着。ここは昨年も八ツ峰登攀で泊まった所。またここに泊まる事になった。昨夜のツェルト張りに改善点を施し、さらに念入りな幕営を行った。バテバテではあるがそれでも計画よりはずっと早い。自分を慰めて、知っている所に出た安心感をつまみに、ラジオを聴きながらウイスキーを飲む。なかなかいい一時である。20時前に就寝。しかしまた深夜頃寒くて眠れなくなり、悶えながら、時々ストーブを点けて、早く朝が来る事を願う。3時頃もう起きてもいいかなと思っていたら寝付いてしまった。
 4日、4時10分起床。また結局予定より寝坊してしまった。天気は快晴。これで天気が悪かったらどういうことになるのか、あまり想像したくはない。一応ハーネスを着けて5時15分出発。源次郎の頭を越え、頂上への胸を付く急登を越え、6時10分剣岳登頂。苦労した分、やはり感動は大きい。やっと携帯が圏内になったため、留守本部にメールを送り、自宅に電話をした。ここからは一般コースの早月尾根。しかし残雪期の滑落例を数件聞いており、気は抜けない。6時30分下山開始。上部の岩場は所々チェーンが出ており、それを利用させてもらう。場所により夏道も出ているが、ほとんどは雪面の下降。こちらは北面が登山道となっているため残雪は多いようだ。1時間ほど下った所で登山者と遭遇。早月尾根ピストンとのこと。下の様子を聞かせていただいた。8時30分早月小屋。しかし日当たりが良すぎるので、日陰になるところまで進み休憩を取った。日差しが強くすでに気温も高くなってきた。その後もアイゼンは外せず、1700m辺りからは所々アイゼンを外して手に持ちながら下り、1600m辺りまで来てやっとアイゼンをザックにしまい込んだ。それからもスピードアップという訳にはいかなかったが、開き直って剣の景観と松尾平の草花、時々現れる杉の巨木を堪能しながら下っていった。11時30分、馬場島に到着。飲料水自販機と温泉を目指して帰宅の途についた。
雲の中に見えた剣岳山頂
藪尾根が続く
左手に毛勝連山
赤谷山が近づいてきた
赤谷山から続く北方稜線
白ハゲにはいやらしい雪がついていた
1日目の幕営
夕方日が差してきた(北方稜線)
テン場から剣岳を拝む
白ハゲ(手前)から池ノ平山(左)へ
池ノ平山中腹より白ハゲを振返る
小窓尾根に登り返る
小窓ノ王より赤谷山方面を振返る
三ノ窓(鞍部)、池ノ谷乗越しへの雪面
2日目幕営
毛勝山方面
いよいよ剣岳へ
剣岳登頂
早月尾根の様子
立山、室堂、奥に北ア南部の山々
剣岳を振返る

おわり