登山者情報1003号

【2006年05月27-28日/春山合同訓練in石転ビ沢/井上邦彦調査】

 天気予報を見る度に訓練日に雨マークがちらついている。雨天時の石転ビ沢は落石の危険性が高くなるので心配であった。ところが土曜日は素晴らしい好天に恵まれ、皆さんは石転ビ沢を満喫されたようである。日曜日は一転して強風が吹き荒れ耐風姿勢の訓練に恵まれた。小雨が降り続き視界のない中の訓練、さらに搬送訓練中には頭上から落石も降り、緊迫感に溢れた訓練になった。それでも参加者全員が怪我らしい怪我をせず無事に帰宅できたことは、主催者の一人として満足している。
 また天狗平(飯豊山荘)までの林道一般開放が遅れており、これを歩くとなると計画を大幅に見直すことになる。除雪は既に完了しているが、道路脇にある急な雪の斜面に岩が止まっており何時置いて来るか分からない、昨年の災害箇所の補修が終えていないし、信号機の電源確保の関係もある。そこで林道管理者は5月中一般車両の規制を続けるとの結論を出した。これを受けて、参加者の車は国民宿舎梅花皮荘の駐車場に駐車し、山岳救助隊員のパトロール車に分乗してもらうこととした。
 昨年は人数が多すぎて充分な訓練ができなかった反省を踏まえ、今回は一般参加者を15名に限定させていただいた。これに山形県山岳連盟指導員会・小国山岳会のメンバーを加えて、総勢23名で訓練を実施した。結果的にみれば、この程度が適性人数のようである。
 07:30梅花皮荘の駐車場に着くと、既に皆が集まっていた。貸出装備や共同装備・食料を分担して担ぐ。
 車を降り、ストレッチ体操を行ったあと、08:34すっかり緑が濃くなったブナ林を歩き出す。08:44砂防ダムの階段を登り、ミズナシ沢の薄くなった残雪の合間を縫うように通過する。夏道が出ているが雪に押されて邪魔になっている潅木も多いので、残雪の上と夏道を交互に進む。林床にはブナの実を被ったブナもやしが一面に萌芽していた。
 正面に北股岳が見えると、あたり一面の木々が一定の高さで方向性をもってなぎ倒されている。対岸のマエサカ沢から発生した雪崩の仕業である。坂を登って見下ろすと、下ツブテ石から上ツブテ石の間は雪渓で覆われ亀裂も見えない。この時期には実に珍しい光景である。雪渓を歩きたくなるが、メンバー全体のことを考えて、夏道沿いに歩くこととした。小沢の手前で後続者を待つがなかなか来ない。聞くとメンバーの1名が途中で足を踏み外し2m程度転落したとのことである。幸いなことに怪我はなかったとのことなので、そのまま進むことにした。下ツブテの沢は穴だらけの残雪で覆われており、ルートが嫌らしい。巻き道も雪に覆われているので、残雪の上端を辿って二つ目の沢に降り、夏道に出た。09:25-40うまい水はかろうじて露出していた。ここで休憩を取る。
 彦右衛門(ヒコエム)ノ平の雪原を歩きながら、「この分だと婆マクレから雪渓に降りるか」と考えた。しかし婆マクレが近づくと沢の音が大きくなってきた。角を曲がり、沢を見下ろすと殆ど雪渓がない!仕方なく夏道を歩くが、先ほどの転落があるので皆慎重である。
 地竹原からは大丈夫だろうと思っていたが、ここも本流は雪渓が既に崩壊している。一度地竹沢に降りて雪渓に上がり、夏道コース(埋もれている)で河岸段丘に上がり、再度雪渓に下りる。ここで雪渓の基礎的な知識、歩いてよい所と悪い所の見分け方を学習する。
 滝沢出合下流に大きな亀裂が両岸に走っている。良い気分はしないが対岸に横断し、右岸の亀裂を越える。滝沢の入口は雪渓がなく、水が勢い良く噴き出していた。単独のスキーヤーと抜きつ抜かれつで進む。梶川は雪渓がしっかりしている。すぐ先の大岩が数個頭を出している水場で水を補給する。
 正面に門内沢を眺めながら登る。門内沢を登っている3人が見えた。間違って入ったのではなく意識的に入っている事を願う。
 10:49-11:30石転ビノ出合でのんびりと休憩。やはり水場はまだ出ていない。これ以上ない好天、サングラスをかけ日焼け止めを塗り、思い思いに持参した昼食を食べる。初心者の方に、雪の凹凸を利用することや靴底側面の使い方など、雪渓の歩き方を指導する。
 23名が蟻の行列のように連なって雪渓を登っていく。昨夜寝不足の方はどうしても遅れる。12:29-55ホン石転ビ沢出合上流の左岸で休憩を取る。ホン石転ビ沢も左岸の小沢も雪渓がしっかりしている。誰かが対岸にカモシカを見つけた。急な雪斜面を横切っていたが、途中で気付いたらしく、こちらを見ている。先行していたスキーヤーが北股沢出合の下からテレマークで滑ってきた。
 この先は落石留意である。雪崩跡を斜めに横断し右岸寄りにコースを取る。傾斜が次第にきつくなり、歩行訓練には最適である。小屋からスキーヤーが下ってきたが、途中で姿が見えなくなった。
 13:31-53北股沢出合右岸に着くとスキーヤーが休憩していた。ここで休憩をして全員にアイゼン装着の指示を出す。アイゼン装着時の歩き方と、ピッケルの使用法を説明し、滑った場合はピッケルのシャフトを打ち込むよう指導した。北股岳の雪庇が崩壊し北股沢出合まで落ちた跡があり、その付近はまだ落ちる可能性があるので、やや右岸寄りに登ることとした。
 斜上していくと岩が露出し亀裂が深い場所があったので、滑落に備えて数名を配置した。あまり右に行き過ぎないようにし、梅花皮小屋に向けて直登するコースを取った。急斜面に「明日、ここを下ることなんてできない」という声も飛び出した。
 14:57梅花皮小屋に到着、すぐに缶ビールを持って水場に走る。水は充分に出ていた。登山道の脇にはミヤマキンバイが数輪咲いていた。管理棟には昨日梶川尾根を登ったODDとAQLがいた。彼らが汚れていた冬期用トイレを掃除しておいてくれた。ただ水はまだ小屋まで来ていないので、水洗トイレは使用できないとのことであった。
 小屋の2階に全員集合、きりきりに冷えたビールで乾杯!ストレッチをして、食事の準備に取りかかった。メニューは「大相撲ちゃんこ」と「玉こんにゃく」、小国町は最年長で入幕した神幸の出身地であり、東関部屋が毎年合宿をしている。本場仕込みのちゃんこ鍋である。
 食事の準備をしている間、ロープを持って集合、昨年も参加したLTQの指導で結び方の講習会が始まった。課題はエイトノット(八の字)・クローブヒッチ(インクノット)・二重テグスの3種類である。明日使うので真剣である。
 そうこうしているうちに、食事の準備が整った。自己紹介から始まり尽きることのない話、1階に宿泊している方も交え大いに盛り上がった。ペースの早い私は途中でリタイヤzzz。
 一晩中強い風が吹いていたようである。起床すると外は視界なく、風強く、小雨。食事を作りながら座学を開始する。
 朝食が済むと、QVHが講師になってカッパとザックを使用した搬送法を学ぶ。続いてHZUが最新の小国方式を説明した。
 カッパを着てヘルメットを被りハーネスを付け外に出る。雪渓に上がっても巻いている風がある。先ずは耐風姿勢の訓練から始まった。続いて滑落停止の訓練、キックステップ・アイゼン歩行をこなし、ピッケルを支点にしたグリップビレイを練習した。ビレイ時に手の位置が雪面から浮いたため、ピッケルが抜け確保者自身も転落したり、どうしてもロープを片方だけ持ったりする失敗があったが、何とか全員無事に終了することができた。
 さて、いよいよ名物の搬送訓練である。今回は小国方式を使用し山姉さんが負傷者役となった。「本当に担ぐの?」この場になって半信半疑の方もいる。
 最初の担ぎ手は川口さん、昨年は負傷者役だったのでぜひ担いで見たいと積極的。先ほど練習したグリップビレイで確保し、下り始める。傾斜はすぐに急斜面となった。「ロープ残り10m!」「確保よし、上の確保解除!」「ストップ!それでは確保になっていない!」「次に担ぐ人は誰」「次の確保者、準備はできているのか!」「脇で支える人がいないぞ!」「声が小さい!聞こえない!」戦場のような罵声が飛び交う。
 次第に要領が分かりスムーズな搬送になるが、何名か滑落者も出る。涙を流している方もいる(本人によると感動の涙とのこと)。「らーく!」2度ほど頭位の落石が脇を掠めて行った。「落ちた!止めろ!」遥か下方で一人が落ちていく、必死で滑落停止を試みてはいるが身体が回転して止まらない。グリセード直滑降で追い駆け最後は走って何とか追いつきストップ。これ以上の訓練は危険と判断、北股沢出合の上部で訓練を中止とし、急いで安全な場所まで移動した。
 ここで搬送用具を外し、ダブルザックを戻した。視界が広がってきた。大部分の人はアイゼンを外し、スキーの要領で滑ったり、尻セードをしたり、肥料袋で滑ったり、思い思いに楽しむ。
 石転ビノ出合を過ぎ、梶川出合上流の水場で昼食休憩。あとは来た道を戻ったが、1日で雪は随分と融け、比較的楽に下山できた。

今回のコース ログが乱れている

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