登山者情報1109号

【2007年08月31日〜9月03日/登山道整備:梶川尾根〜御西小屋/井上邦彦調査】

 天候を考慮し、前夜集合時刻を1時間繰り上げる。当日は3時に起床しコンビニを経由して天狗平ロッジに向かう。ロッジには管理人のVCK、まことさん、ひまわりさん、NIYが泊まっていた。やがてオバケさんとハイジさんが到着し、荷分けを行う。私を含め総勢7名である。
 05:48天狗平の登山届出所を出発する。相変わらずの急坂に高度をぐんぐん稼ぐ。06:24-35楢ノ木曲リには数年前に熱射病により此処で亡くなられた方への手向けであろう、花束が置かれてあった。梅花皮小屋のOTJと無線で交信する。
 07:03-09休憩を取りカッパを着る。07:30湯沢峰通過、霧雨程度で視界はない。08:04-12滝見場で休憩。石転ビ沢が見えたが、雪渓は下部の崩壊が著しいようだ。08:42-47休憩。
 08:54五郎清水を通過する。09:20-25休憩、梅花皮大滝が見えた。09:31三本カンバを通過する。この辺りから花が出てくる。オヤマリンドウ・ヤマトウバナ・エゾシオガマ・ミヤマアキニキリンソウ・ヤマハハコ・コゴメグサ。
 09:57-10:02梶川峰で休憩。雨が降っているが視界は良好で、杁差岳まで見えている。10:45扇ノ地紙を通過する。やはり稜線に出ると風が強くなる。
11:11-40門内小屋で休憩を取る。本棟の外ドアがなかなか開かない、開き方の説明書が貼り付けてあった。内ドアも開け閉めにこつがある。中に入ると、NENさんが直してくれたのだろう、床が見事に綺麗になっていた。ザックを置いてカッパを脱ぐと、皆の体から湯気が上がる。吐く息も白い。オバケさんがお湯を沸かしコーヒーを作ってくれた。トイレに行った女性から、自転車のペダルが破損していたと報告があった。
 ギルダ原は強い風雨に煽られながら通過する。登山中にギルダ原の語源について質問があった。藤島玄著「越後の山旅上巻168頁」に書かれている内容を説明したが、ここでもう一度記載しておく。「ギルダ原は小鞍部の草原で、山形県側の下にギルダノ池が見下ろされる。ギルダは米軍がつけた台風の名で、その台風難をここで避けたので命名されている」
 12:35北股岳山頂を通過し、12:52梅花皮小屋に到着した。人数が多いので、本棟に入ってザックを降ろす。女性陣の着替えが終了した時点で管理棟に集合、OTJ手作りの煮物から始まり、各自が持ち寄った肴で酒も進む。登山口でお会いした下越山岳会の川崎・小野さんも参加する。
 17:00過ぎに無線で、AXLとEBCは門内小屋に泊まると連絡があった。

【9月01日】
 翌日はうって変わり好天に恵まれた。AXL・EBCを待つというVCKを置き、05:56梅花皮小屋を出発する。登山道周辺はウメバチソウ(盛)・イワインチン(盛)・タカネマツムシソウ(終)・コゴメグサ(盛)・シラネニンジン・ミヤマアキニキリンソウ・ヨツバヒヨドリ・ハクサントリカブト(盛)に包まれている。
 06:18梅花皮岳山頂を通過する。ミヤマアキノキリンソウ・エゾイブキトラノオ・ニッコウキスゲ・ヤマハハコ・ヤマトウバナ・ミヤマキンポウゲ・ハクサンボウフウ・イイデリンドウ(僅)・タカネナデシコ・コゴメグサ・ハクサントリカブトと枚挙に暇がない。
 06:41-45烏帽子岳山頂で休憩を取る。今日は09:00に御西小屋集合である。これから通る稜線に眼をやる。ミヤマキンポウゲ・オタカラコウ・エゾイブキトラノオ(盛)・ダイモンジソウ・ヤマハハコ・ミヤマコウゾリナ・ハクサントリカブト・ミヤマアキノキリンソウ・オヤマリンドウ、期待通りの花畑である。
 09:53クサイグラ尾根分岐を通過する。ハクサンボウフウ・コバイケイソウ・ヨツバシオガマ・ミヤマキンポウゲが咲いている。
 08:02-16天狗ノ庭で休憩する。此処は23日の作業予定地である。主稜線上から見る大日岳が素敵だ。天狗岳に登った瞬間、目の前に広大な山稜が広がる。御西小屋は眼と鼻の先だ。ニッコウキスゲ・コバイケイソウ・シラネニンジン・ウサギキクを横目に、今回作業する荒廃した登山道を登り、08:58御西小屋に到着した。
 小屋には既に何人もが集まっていた。管理人のIWUに挨拶をして、荷を降ろす。一息ついたところで、ニュージェックの川端さんが中心となって作業の打合せを行う。
 天狗平の流水コントロール研修に参加したメンバーは、何処をどのように施工するか調査設計班、その他は種子採取班とした。
 先ずは登山道を観察しやすくするために、水の道に白い紐を這わせる。これを見て淵と瀬を判断し、何処にどのような石組みを施工し、水の方向を変え、水力を弱め、岸の崩壊を防ぎ、河床の侵食を食い止めるか。さらに、侵食の度合いや傾斜を見て、排水路の場所やダムの数を決めていく。
 大まかな設計図を頭に描いたところで、全員が集まる。種子採取班も戻り、ショウジさんから熟して使用できそうな植物の説明を受けるが、正直言って私にはちんぷんかんぷんである。
 何時の間にかVCK・AXL・ECB、小白布から登ってきた清水さんを含めて小国班は10名になった。下越山岳会2名、亀田山岳会は本間さん以下4名、ニュージェック4名、環境省2名(後から1名)、置賜森林管理署1名、中条山の会1名・・・
 小国班の昼食はECB・VCKによる温かい素麺、これで元気が出た。昼食後、植物班は熟した種を求めて天狗ノ庭に向かった。残ったメンバーを5班に分け、研修経験者を班長にして本格的な工事を始める。
 古い御西小屋の基礎がそのまま残されていた。見るとコンクリートの枠に下界で形を整えた花崗岩を貼り付けただけのものである。協議の上この石も使うことにした。手ハンマーで叩くと簡単にはがれたが、一輪車でもあればともかく、これを現場まで運ぶのが問題。トイレの囲い板に目をつけた。板に石を乗せ二人がかりで運んだ。重い石は板が折れると困るので、板を十字に組み中心に石を乗せ4人がかりで運ぶ。
 ダムは、場所を決めたら基礎になる大きな石を両岸に、真ん中にはやや大きな石を埋める。真ん中に埋める石を上流に配置すると自然に上流に倒したアーチ型になる。3個の石の間に、上流から力が加わっても動かないように、石をうろこ状に置く。このとき、両岸の石を高くしないと水の浸食を受けるので留意する。次に石の間に上流側から小さな石を詰めて手ハンマーで叩き、さらに砂利を詰めて水が流れないようにする。下流部は水が溜まるプールにして、底には侵食を洗掘しないように水叩きとし平らな石を置く。 水の流れを考えて特定の岸に集中しないようにするが、水の当たる淵の岸には石を並べて護岸とした。
 前日の強い雨のときに現場を観察していた川端さんの助言と指導によると、この登山道は斜面になった草原を横切るように下っているので、上の草原から水の道ができて流れ込んでいたとのことである。その痕跡を探して上から来た水が登山道を横切って下の草原に落ちるよう、横断する水路を2箇所作り、登山者が歩きやすいよう踏み石を配置した。
 川端さんが「昔、この辺りに池糖はなかった?」と尋ねられたが、私が山を始めた頃、小屋の周囲は既に幕営により破壊されていた。むしろその後に幕営エリアを制限することによって徐々に回復が進んでいる状態である。ただ、この付近を弥陀ヶ原と称したと聞いており、御西岳周辺と同じような地形と植生を持つ所には小さな池糖が散在していると答えた。彼女の指摘で周辺を歩いてみると、昔の池糖が踏圧により侵食された部分が決壊して、保水機能を失っていることが一目瞭然であった。
 つまり昔は一体が池糖の散在する草原になっており、雨を一時的に蓄え、周囲の草原に浸透するように広がりを持って流れ、集中することはなかったのである。
 そう言えば、昨日、雨の中、梶川尾根の草原を歩いていた時、池糖の周りの草原が水を張った水田のようになって雨を受け止めていたことを思い出した。
 そこで池糖の崩壊した部分に土嚢を置いて保水機能の再現を試みることにした。一体は裸地が縦横に走っており、本来は小さな池糖であるものが、繋がってしまっている。ともあれひとつの試みとしては価値があると思えた。
 現在御西小屋の水場は実川源頭の清水を使用しているが、以前は桧山沢源頭の融雪水を利用していた。このため沢に下る道が残っている。ここに排水すると洗掘が進むと思われたので、排水は別な場所に求めた。いつかはこの旧水場に下る道や、途中の幕営跡にも手をかけたいと思った。
 夕食は小屋が狭く天気も良いので各団体毎に固まって外で食べた。具沢山の鍋には、鮭・チクワ・豆腐・・・たっぷりのミズ菜も入ってみんな満足である。
 宿泊を予定していた一般登山者が切合小屋に変更したとの情報が入り、小屋は私達の貸切になった。そこで2階を会場にして、全員が車座になり大交流会となった。最後は数人で小屋を抜け出し、満天の星に包まれ、新潟の夜景を見下ろして夜が更けていった。

【9月02日】
 朝食を終えると、今日中に帰るメンバーが出発した。私はショウジさんから種子採取の手ほどきを受けるになった。昨日天狗ノ庭まで採取に行ったヒマワリさんは、もうベテランになっていた。分類や熟度の見分け方のポイントを教わる。これらの単子葉植物をこんなにも意識的に観察したのは始めてである。
 「根本が赤いのがノガリヤスの仲間、赤くなく幅広いのがヌマガヤ。ノガリヤス・ムツノガリヤス・ヒゲノガリヤス・ヒメヒゲ・タカネスズメノヒエ・キンスゲ・・・」覚え切れません。
 それにしてもなかなか種子は集まらない。草原よりも登山道脇の方が、気温が高いので早く熟すると聞いて、なるほどと頷く。
 昨日門内小屋に泊まってトイレの不具合を直してきたという下越山岳会のNEN・高橋前会長・藤井会長達が到着して作業に加わった。
 次はいよいよ苦労して運んだ緑化ネットの出番である。洗掘された登山道のノリ面を重点的に施工することとした。最初に、採取した種子を蒔くが、中には故意に傷つけないと発芽しにくい種類もあるとのことである。
 種子の上に緑化ネットを被せるが、緩めにするのがポイントである。余裕を作ることによって雪圧で地面にしっかりと張り付くのである。ところが苦労して運んだせいか、どうしても引っ張ってしまう。すると石の凹凸によって空間ができ、効果がでないのである。
 ネットは道脇の黒土にもかかるようにして、登山者が通る部分だけを空ける。最後に土嚢や石組みを使って池糖の崩壊部分を補修して全ての作業が終了した。
 最後まで残ったのは、ニュージェックの皆さん(本山小屋泊)と、梅花皮小屋に泊まる私達(NIY・VCK・まことさん・ヒマワリさん・ハイジさん・HZU・川村さん)だけであった。
 11:10管理人のIWUに見送られて御西小屋を出発する。11:44-54天狗ノ庭に次回に使用するスコップ等をデポする。12:16御手洗ノ池を通過し、12:34-13:03亮平ノ池でコーヒータイムとする。充実感と空腹に無糖の紅茶が染み込む。
 13:37烏帽子岳、13:53梅花皮岳を通過する。ダイグラ尾根を下ったオバケさん・ECB、作業終了後に追い駆けたAXLが揃って温身平まで降りたと無線で連絡があった。
 14:12梅花皮小屋に到着。OTJを加えた管理棟の夜は合唱で更けていった。

【9月03日】
 前夜、腕時計の目覚ましセットの仕方が分からず適当にいじっていたら、01:00に小さな音で鳴った。トイレに行き、また寝る。携帯電話のけたたましい目覚ましで起床。ザックに適当に荷物を投げ入れて、02:03梅花皮小屋を出発する。
 02:20北股岳を通過する。月が出ておりライト無しでも歩けそうだが、変に足を挫いてもつまらない。念のためライトを点けて歩く。02:55-03:03門内小屋のトイレで自転車を漕ぐ。不具合は解消されていた。NENさん達に感謝。03:19扇ノ地紙を通過する。ここまで新潟の夜景が素晴しい。米沢も夜景だが小国は雲海の下に眠っている。03:35ケルンを通過する。体調はあまりかんばしくない。無理をせずに一歩一歩確実に歩くことにする。03:43梶川峰、03:56三本カンバを通過する。
 04:11-22五郎清水到着。水筒は門内小屋で空になった。喉が渇いて仕方がないので水場に行き4:16戻ってウィンダーを飲む。手前の水場で汲んだせいか水が苦い(五郎清水は幾つか水脈があり、各々味が異なると感じるのは私だけだろうか?)。04:39滝見場を通過する。空が次第に明るくなってライトが弱く感じるが、木陰は暗い。程なくライトを消す。05:03湯沢峰でライトをザックにいれ、05:30楢ノ木曲リを通過する。05:39カウンターを過ぎたところで、梅花皮小屋のVCKから無線が入った。06:00出発予定だったが1時間遅くしたようだ。昨夜の打合せどおり、NIYとハイジさんが丸森尾根、他のメンバーは梶川尾根を降りるとのことである。
 05:46一枚岩を通過し、05:51天狗平に到着して今回の山行を終えた。後は自宅に直行し風呂に入って朝食を取り、知らぬ顔をして出勤した。

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