登山者情報1,372号

【2010年07月29-31日/泡滝―三方境/井上邦彦調査】

 今年の朝日連峰合同保全事業の計画立案のため、三方境に行って来た。また、以東岳直下の侵食箇所の実態と保全工法の調査を行うため、泡滝からの往復とした。
 村上市朝日庁舎に電話で確認をしたら、小国から三面までは問題ないが、三面と県境の間が道路工事のため8月末まで通行止めになっているとのことであった。30日昼に三方境集合であるが、鶴岡市経由の場合は当日朝出発では厳しいと判断し、前日1時間の有給休暇を取得し、車を走らせた。距離178.7kmで20:36泡滝に到着、そのまま駐車場に停めた車に横になった。
 翌30日、04:40泡滝を出発する。若干のメジロアブがまとわりつく。05:20吊橋通過、05:39再度吊橋を通過し、大鳥池手前のブナ林でカッパを着る。
 06:24-32雨の中、タキタロウ山荘の水場で食事をし、水を汲んで出発。06:55沢から離れて登りになる。07:28-332回目の食事。07:46掘れた急な道をから森林限界に飛び出る。水が浸食を受けた旧道を勢い良く流れ落ちる。一箇所、水が途中から姿を消す場所があり、奇異に感じた。
 08:23-50以東小屋で休憩、3回目の食事。以東岳を通過してまもなく、羽黒+ニュージェックパーティと合流し、一緒に行動、10:16狐穴小屋に到着した。
 西川山岳会の渋谷会長を待ち、皆で三方境に出掛ける。雨は止んだが、視界は依然として利かない。
 ここは2008年9月に合同保全作業を実施した箇所である(登山者情報第1193号)。その後、川端さんが若干手直し(目詰めの補強)を行ったと聞いているが、私は作業後始めての確認である。
 三方境の施工箇所は、上下2段に分かれる。下段の石ダムは見事に機能していたが、問題は上段である。上段の下部は問題ない。しかし緑化ネットはこれまで見たことのないようにボロボロに溶けているではないか。
 よく観察をすると、上部(南)に向かって、侵食溝の右手は形状が残っているが、左手の溶解が著しい。さらに詳しく見ると、左手も下の方は破損が少なく、上部が酷い。これは冬季間に右から吹きつける季節風の仕業だと、合点がいった。
 推測するに、氷や砂粒などがナイフのような鋭さを持って、露出している緑化ネットを襲うが、吹き溜まりとなって雪に守られた部分は破損から免れているのだろう。
 右側でも、吹き抜けるであろう部分のネットは、ズタズタになっていたし、残っている緑化ネットでは植物の発芽が見られたことは、これを証明しているのだろう。
 また、石にペンキで印を付けて登山道を表示していたが、登山道の固定も非常に大切な要素である。付近は風化した花崗岩が砂礫となっており、登山道以外に足を踏み入れると潜るような状態である。せっかくそこに芽生えた植物が、砂の動きによって駄目になる可能性が高い。具体的にはロープ等を使用した登山道の固定も止むを得ないものと感じた。
 最上部は傾斜がきつくなる。予想通りに石組みや石と土嚢の間が抜けているものがあった。状況を見ると、いったん土砂が堆積し、その後に抜けたものと思われる。
 傾斜のきつい箇所では、単に目詰めだけではなく、刈り払いで生じた笹などの利用が必要のようである。その点では、狐穴小屋周辺に敷き詰められている椰子の繊維(椰子の繊維は保水力がないため、土の上に敷くと植物の発芽を抑える働きがある)を再利用することができれば、極めて有効であると思われた。
 翌31日も、視界はなかったが、再度三方境に出掛け、再確認と若干の補修を行い、その後、07:23狐穴小屋から以東岳に向けて出発した。
 確認した花々はヨツバシオガマ・イワイチョウ・ヒナザクラ・ハクサンボウフウ・ニッコウキスゲ・キンコウカ・コメツツジ・ハクサンイチゲ・ナクサンフウロ・イワテトウキ等である。
 08:04中先峰を通過する。風が強くなり雨も混じってきた。朝日連峰における保全作業の最大の核心部は、狐穴小屋と以東岳の間に広がる乾性地帯の裸地と侵食地である。現場を見ながら意見を交わす。
 侵食が激しい箇所は、当初の登山道が直登的に作られていることが分かった。巻き道的に登降している所や、ジグザグになっている所は、比較的強いようである。また石が多い所と殆どない所があるが、保全の材料をどうするかも極めて大きな課題である。
 登山道により裸地ができると、そこから風が入り込んで植物の根の下を風食して行くさまが明らかであった。そこに石で壁を作れば防ぐことができるわけだが、その石をどうして調達するか。一個の石が風を遮り、その風下に植物が生育している様子をみれば、石を埋め込むより、地上に露出させる方が、効果が期待できるのでないか等々、考えさせられることが多かった。
 08:08池塘を通過する。イワショウブ・キンコウカ・オオバギボウシ・クルマユリ・ミヤマホツツジ・ミヤマリンドウ・ノリウツギ・マルバダケブキが咲いている。風雨はますます激しくなってきた。
 09:48-10:37以東小屋で休憩する。雨も止んできたので、測量の方々と一緒に東沢から登ってくるコースのお花畑に行き、現場で具体的な測量の方法について川端さんから指示がなされた。お花畑にはウメバチソウ・ミヤマアキノキリンソウ・イワショウブ・キンコウカ等が咲いていた。
 お花畑は昨日雨の中状況を見たが、改めて見ると、かなりの侵食である。じっくりと歩いているうちに、おかしなことに気が付いた。以前から、侵食の程度が一様ではなく、底に植物が生育していることに違和感があったのだが、その原因が分かった。
 侵食の深さはおおよそ2m強あるが、狭い溝を降ってみたら、いきなり底が高くなった。不思議に思って覗いてみると、一番奥に穴が開いており、さらに降って侵食が深くなっている所にも穴があった。この穴は続いているようだ。
 これで昨日の疑問が解けた。勢い良く落ちた水流が消えたのは、この穴を通り抜けていたのである。
 それでは何故、穴が作られたのかであるが、穴の入り口と出口の間の溝底は一面笹で覆われていた。つまり、侵食が極端まで進んだ結果、溝の上に覆いかぶさるようになった植物の塊が、大変に大きい範囲で滑り落ちて溝を埋め尽くしたのである。その時にできたトンネルがそのまま現在まで活きているのだ。
 この仮説を基に改めて溝を観察してみると、至る所に滑り面を見つけることができた。
 標柱まで下って、ふと登山道が溝の反対側にもあることに気付いた。標柱を良く見ると、一部に削った跡があり、「⇒水場」とあるようだ。確かにここから草地に斜上する踏み跡の先には水場がありそうである。ただ、「←大鳥池・以東岳→」の文字と水場の文字の方向が全く逆になっている。おそらくは、標柱を作成する時に間違ってしまったことに気付かず、現地で立てる時に慌てたのだろう。
 登りの時に標柱を見れば、自然と溝の右を登ることになる。ところが私達が降ってきたのは溝の反対側である。どこでどうなっているのか、もう一度上まで登ってみた。その結果、溝にある岩の部分で合流しており、降る時は岩が邪魔をして登りと違うコースを歩きやすい状態にあることが分かった。
 結局、この付近の登山道(踏み跡)は、溝の両側にそれぞれ2〜3本あるのだ。これは、整理して登山道を固定する必要があるだろう。私の感覚としては、下から見て右側のコースは弱い植生が多く、左側は強い笹原になっていること。右側は排水路が取れないことから登山道に雨水が集中して侵食を受けやすいが、左側は尾根上になっているため容易に頻?な排水路を設けることが可能なこと。つまり、左側に登山道を固定すべきだろうと感じた。
 その後は、急な掘れた登山道を下る。ここも補修する気になれば、やりがいのある場所だ。やがて雲の下に大鳥池が現れた。 
 14:10タキタロウ山荘で、朝日山地森林生態系保護地域巡視員の合同パトロール一行とお会いする。私達の本日の行動も、合同パトロールの一環である。
 17:00泡滝に到着し、解散。一人帰宅した。

森林限界を抜けると、掘れた登山道が滝になっていました
勢い良く水が落ちています
水は滝壺を穿つ
何の標柱?
以前に施工された修復工事の残骸
これは沢ではなく、登山道です
登山道の下は空洞になっています
渋谷会長と合流し、三方境の施工地を確認に出掛けました
石ダムには砂が堆積していました
石ダムの効果は確実にありました
さらに調査を続けます
しかし、最上部の急傾斜地に行くと
土嚢と石の間に隙間ができていました
一度土砂が堆積したものの、その後に石の下に水道ができたようです
急斜面では改善の余地があります
対応策を検討します
緑化ネットの具合はどうでしょうか
左右の緑化は同時期に設置したものです
左側のネットだけが見る影もなく無残な状態になっていました
よく見ると、ネットの太い部分以外は溶けてなくなっています
いったい何が起きたのでしょうか?
嬉しいことがありました
残されたネットに緑の芽が出ていました!
ここにはびっしりと出ています
石の間に出ています
これは、流れてきた草が、石ダムにひっかかったもののようです
枯れ枝の様子から、風が要因のひとつと考えられます
狐穴小屋に戻って、泊りました

続く⇒