登山者情報582号

【2001年09月22〜23日/湯ノ島小屋〜オンベ松尾根〜大日岳/井上邦彦調査】

エアリアマップでは読み方の正確を期するため地名を簡略化している。「御幣松尾根」を「オンベ松尾根」、「早川ノ突キ上ゲ」を「早川のつきあげ」としている。今回は、旧来の地名を使用する。
前夜の飲食と、本日中に湯ノ島小屋に着けば良いことを考慮し、のんびりと自宅を出て、津川町で買出しと昼食を取る。途中、三川町の鮎釣りと磐越西線のSL撮影者の多いことに驚く。ゲートに到着すると駐車場は既に満車、手前の待避所に車を止める。この先で発電所の工事を行っているため、管理員がおり工事車両の出入りを確認していた。車から自転車を降ろす。今回は娘の変則付きの自転車を借りてきたので、何時もより自転車を引いて歩く距離が著しく改善されたのだが、サドルがぐらつき結構苦労する。箱ノ沢のトンネルのゲートは下を潜り抜け、ヘッドランプを頼りに自転車を漕ぐ。トンネルは曲がっているので真っ暗闇であり、真ん中に水が流れるよう側溝が作られている。側溝に入ると転倒してしまうので、神経を使う。先行している登山者の声がトンネル内に反響し、上から水が首筋に滴る。車が来るとトンネルの端に身体を寄せ、ライトを車に向ける。1台がやっと通れる狭さなので、こちらの存在をアピールしないと危険である。登山者を追い抜いてトンネルから出ると、正面に草履塚が見えた。さらに砂利道を進み、大きな生態系保護区の看板の数m先に、小屋へ入る登山道がある。標識はなく、ブナの木に赤ペンキで「小屋」と書いてあるだけなので、初めての方はかなり戸惑うことだろう。そのまま自転車を持ってブナ林の中に入り、ようやく湯ノ島小屋に到着する。1階にはびっしりとマットや寝袋が敷き詰められていたので、2階に上るとここも満員。1階の方々は釣り人とのことなので、帰ってきたら詰めてもらうことにして、散歩に出かける。林道終点まで行き、若干戻って明日の偵察にアシ沢の橋を確認し、暇つぶしに旧道を若干登り、適当な尾根を下り沢に出ると「オウデ沢取水口」施設があった。ここから車道を下り、下の砂利道に戻り、こんどはオウデ沢を渡ってすぐ右上の踏み跡を登りブナ林の中に入り、そのまま旧道を小屋に向かった。
湯ノ島小屋周辺は分かりにくいので、若干解説しておく。そもそも島とは河岸段丘の方言である。またオウデ沢(ヨシワラ沢)に昔温泉が湧いたので、湯の湧く河岸段丘のブナ林というのが、「湯ノ島」の由来である。以前は鬱蒼たるブナ林であったが、電力会社がアシ沢合流点直下の実川に取水口を設けるため、林道を開設した。その後、オウデ沢右岸に2代目湯ノ島小屋が建設されたが、一冬を越さずに雪崩で破壊され、3代目の湯ノ島小屋は初代と同じブナ林の中に立てられた。車道から小屋に入るには3本の道があり、ひとつは先述した生態系保護区の看板のすぐ先、ブナの木に書かれた赤ペンキから左に入る。二つ目は、分岐から暫く砂利道を進むと、左のブナ林にしっかりとした登山道がある。標識などはない。ここは小屋を建設する時に重機が入った道である。三つ目は、更に進んでオウデ沢に下り始める直前に左手の踏み跡を登り、ブナ林の中に入る。標識等はない。これは林道ができる以前からの登山道である。オウデ沢前後は舗装道路となっている。砂利道になるとすぐ左から車道が入るが、これはオウデ沢の取水口に行く道である。無視して進むと、砂利道の左下に行方不明者の看板がある。「実川口登山口」と書かれた黄色い標識は直接地面に置かれているため、草に覆われて見えない。これが御幣松尾根への登山道である。砂利道をさらに進むと柵に囲まれる。目の下に取水施設がある。なお、湯ノ島小屋は2階建てで便所2穴が別棟になり、すぐ後ろに清冽な清水が引水されている。
翌23日は04:00起床、邪魔にならないように外で昨夜の残りのタラ汁を暖め直して食べ、04:15湯ノ島小屋を出発する。ヘッドランプを頼りに旧道を進み、オウデ沢から車道に出て、再びブナ林の中の登山道に入る。若干進むと尾根の末端に標識が出ており、尾根道(旧道)は通行止めとなっており、木の梯子を下り、トラバース道を下り、鉄パイプで作られた橋を渡る。華奢な橋なので、降雪前に解体するのかもしれない。橋を渡ると右に斜上し、瘠せた尾根に取り付いて登ると、右手に深い実川を見下ろして、広い河岸段丘に出る。ブナ林の中には、釣り人の踏み跡や旧登山道に迷い込まないように、何箇所も標識が設置されている。いよいよ尾根に取り付くと、単調なブナ林の登りで、どんどん高度を稼ぐ。途中には「月心清水1km」の標識があった。04:56尾根が緩やかになり、右手に大きな尾根が見えてくる。この間の沢の源頭が月心清水だろう。まもなく左手上の方に水晶尾根(大日岳〜牛首山〜櫛ケ峰〜水晶峰に続く尾根)が見えてきた。05:05ヘッドランプを消す。05:15いきなり明るくなってきた。SPO2/脈拍数は(93/134)である。月心清水でラーメンを煮る。気温は8℃である。水場までは下り58秒、上り50秒、殆ど平坦なトラバースであり、沢の水は豊富であるが、やや汲み難い。
月心清水からはいきなりの急登となり、ロープが設置されている。登りきると素晴らしい朝焼けの水晶尾根が浮かび、05:47巻き岩山方面から太陽が昇った。05:50右手に草履塚から本山(飯豊山神社をさす、三角点は飯豊山と言う)が見えた。大展望を独り占めして尾根を登る。登山道は霜で真っ白になり、吐く息も微かに白く濁る。霜柱も出てきた。一服平には標識はないが大江氏の記念碑が設置されているので目印になる。正面に早川ノ突キ上ゲへ登る尾根が伸びている。右手の三角形のピークは牛首山であり、大日岳はまだ見えない。右手に目を移すと、弥陀ヶ原の御西小屋・草月平のケルン・駒形山・飯豊山・本山・草履塚・種蒔山・三国岳・疣岩山から鏡山まで連なり、磐梯山・吾妻連峰・火打ケ岳・男体山・越後三山・妙高山などが雲海に浮かんでいる。花はセンジュガンピ・ゴマナ・ウメバチソウ・トリカブトが各々数株咲いているのみである。
気温5℃、足の爪先が痛くなる。本山小屋のVQOと繋がる。雨が降らないので雪は積もらないが、GPアンテナに5cm程度の海老の尻尾が着いていたとのことである。
早川ノ突キ上ゲの菱形標識は文字が消えている。ここで始めて大日岳が見えた。この先、牛首山の登りから大日岳まで、全く道刈りがなされていない。始めは平泳ぎの要領で笹薮を分けて登るが、ストックが邪魔なので足先で道を探りながら登る
全然足元が見えないので、脛を木の枝にぶつけてしまい、痛さにうずくまる。牛首山の標柱に着くと、弥陀ヶ原から天狗岳まで見えてくる。蔵王も顔を出した。標柱のあるピークよりもその先の岩稜の方がやや高い。無線機からAXLの声が聞こえる。御神楽山で遭難が発生したとのことである。話を整理すると、御神楽山で林道から暫く入った所で登山者が約30m転落、近くにいた登山者がアマチュア無線で助けを求めた所、梅花皮小屋の無線がそれを傍受し、小国警察署を経由して津川警察署に連絡、現在、地上隊が現場に向かい航空隊もフライトを準備しているとのことである。私と下界のDUPと無線が繋がったので、雲海の状況を送る。藪はますます酷くなり、深い所は首まで笹薮に覆われる。かなりスピードがダウンする。交信の時にうっかり長いアンテナと万歩計を落としてしまい探すが、結局見つからずじまいであった。「牛ケ首」の菱形標識を通過し、最低鞍部から右手に巻く部分は草原の急斜面になっており、藪から開放されて一息つく。ここは雪があると厄介な所だ。針金とトラロープが設置されていた。ドライフラワーのようなヤマハハコが印象的であった。岩稜は問題ないが、右手がオーバーハング気味に切れているので、高度感が出る。惣十郎清水手前の笹薮は始めての方にはルートが分かり難いだろう。惣十郎清水には残雪は全くない。そのまま西大日岳方面に進む微かな踏み跡も残っているので注意すること。小さな雪窪地形手前から右手に折れて直登し、08:41大日岳に到着する。SPO2/脈拍数は(86/156)である。ここで偶然、米澤氏とお会いする。天候が良いので、西大日岳まで散歩に出かける。最初は藪化しているが、草原が多いので楽である。左下の雪窪地形にはまだ残雪が残っていた。このあたりは熊が多いので、視界がない時は注意したい。登山道脇の小池が凍っていたのでストックで割り、氷をビニール袋に詰めて缶ビールを冷やす。09:13西大日岳の三角点(大日岳には三角点はない)で展望を楽しみながらラーメンを煮て缶ビールを飲む。無線機から、御神楽山の登山者をヘリコプターで無事救助した旨の連絡が入った。新潟県警のヘリコプターだろうか、飯豊川から飯豊山まで飛んで帰っていった。MXLが梅花皮小屋から飯豊山まで遊びに来ており、VQOと一緒に居るとのことである。ODDは梶川尾根を登っているらしい。日本海には佐渡ケ島や粟島が浮かんでおり、朝日連峰の背後には鳥海山や月山が浮かんでいる。
大日岳まで戻り、主稜線を撮影して下る。牛首山の標柱でズック靴の紐をきつく締め直し、膝バンドを巻いて下降体制とする。後は一気に下り、湯ノ島小屋で昨夜の釣り人の方々と話しながらラーメンを煮る。トンネル入口まで行ってから小屋に寝具を忘れたことに気付き、一旦戻る。あとは快適に自転車で駐車場に向かう。発電所工事が休みのためか、全てのゲートは開放されていた。
なお、その後、梅花皮小屋の無線機が只見の事故を傍受し、小国警察署を通じて救助体制を要請するというアクシデントがあった。また、門内小屋の幕営地に親子熊がいたとの。ことである稜線にはコケモモなどの実がなっており、熊の良い遊び場になっているようだ。ODDとMXLによれば、梅花皮小屋から双眼鏡で確認した石転ビ沢は、石転ビノ出合(門内沢出合)の雪渓状態が悪く、合流点の下をジャンプして渡る以外に方法はないとのことであり、多少の増水で通行不能となる。またホン石転ビ沢出合下で雪渓を歩くが,翻意し転び出会い付近や北股沢出合付近の雪渓が崩壊しており、雪渓を歩くのはほんの僅かで殆どが不安定なガレ場歩きとなり、上級者以外は通行不能とのことであった。

通過時刻
自宅09:16→11:00津川町11:58→12:16日出谷駅→12:21実川分岐→12:38ゲート12:57→13:34トンネル入口→13:43トンネル出口→13:53小屋入口→13:57湯ノ島小屋04:15→04:23アシ沢→04:29休憩04:34→04:54「月心清水1km」の標識→05:18月心清水05:42→06:23一服平→06:40休憩06:52→07:06早川のつきあげ→07:31牛首山標柱→07:44休憩08:00→08:11牛ケ首標識→08:34惣十郎清水→08:41大日岳08:53→09:13西大日岳10:08→10:26大日岳10:37→11:16牛首山標柱11:33→11:46早川のつきあげ→12:02一服平→12:25月心清水→12:41休憩12:49→13:20湯ノ島小屋14:16→14:30トンネルを通過→14:50ゲート
所要時間(除く休憩/2001年版コースタイム=率):分単位
ゲート→自転車使用(60/200=30%)→湯ノ島小屋→(58/180=32%)→月心清水(72/180=40%)→早川のつきあげ→藪深い(79/160=49%)→大日岳→藪深い(52/120=43%)→早川のつきあげ→(39/120=33%)→月心清水→(47/120=39%)→湯ノ島小屋→自転車使用(34/190=18%)→ゲート

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