登山者情報672号

【2002年11月02日/南俣〜二王子岳/井上邦彦調査】
雨の音で目が覚める。予報によれば今日は降水確率70〜60%、山沿いは雪、風、雷。予定通り標高の比較的低い二王子岳に照準を当て、雨からミゾレ、吹雪を想定して菅笠に長靴を着用することとした。下着やズボン等の服装を今回から冬山に切り替えた。途中のコンビニで食料を仕入れる。今回は出発が遅かったので、途中で朝食とする。卵を気にする必要がないと弁当を選ぶのが楽である。
南俣集落で標識に従い細い車道に入る。時折ある標識を目当てに進む。途中の棚田でニホンザルの群れに出会う。車道が尾根筋を進み、南俣集落から2.1kmの地点で左の尾根を掘り込んだ登山口があり、標識が立てられている。車道は下りとなり橋を渡るとT字路に突き当たる。「←二王子神社、→駐車場」の標識がある。右に折れ、2段になっている駐車場に車を止める。
二王子神社の境内には、駐車場、トイレ、籠堂2棟(痛みが激しい)、炊事棟があり、籠堂と炊事棟の間から登山道に入る。炊事棟に郵便受けがあり、登山者カード記載場となっている。水路沿いに進むと杉林になる。橋を渡り鬱蒼とした杉林を進む。川には岩魚だろうか20cmばかりの魚が素早く走り抜けた。登山道は沢身を登り、再び杉林を抜けて雑木林を登ると若い杉林となり「一合目」の標識が杉に括り付けられていた。ここでシャツを脱ぎ、長袖の下着で歩く。450mで杉林が終り、程なく緩いトラバースとなる。突然足元から、つがいのヤマドリが飛び立つ。太い一本杉にからは、大きな岩が積み重なっている沢筋を登る。途中の神子石は二つの大岩が重なって中が洞となり、石柱が立っている。付近にはアラレが積もっている。神子石から斜面を右手に登り左に折れると沢(水場)に出て、ブナに「二合目」と書かれた標識が付けられている。アラレが降ってきた。登り切ると、直進する道と左に進む道が分かれる。左の道がはっきりしているので進むと、杉の巨木を背後にして祠がある。さらに進むと右手に、先程の直進道を合わせ、すぐ先に十字路がある。正面に「水場」の標識が立っている。直進するのは水場への道である。左手に一王子小屋がある。中に入り休憩する。小屋の中は狭いが清潔である。二階は荷物があり、使用できるのは一階だけである。小屋を出て十字路を過ぎると、すぐ杉の巨木に「三合目」と書かれた標識が付けられている。
尾根の左手を巻くように登り、平坦地を過ぎて沢沿いに登る。テンと思われる足跡が続いている。細いブナ林の尾根に「四合目」の標識が凍り付いていた。ブナは次第に潅木となっていく。雪の上にヤマドリの足跡を見つけた。雪道では動物達の痕跡が楽しめる。山の息吹が聞こえてくるようだ。高い鉄柱と三角点、「五合目」の標識がある。定高山である。積雪は約25cmである。雪が降るのでカッパを着る。紅葉がそのままで冷凍されている。突如、ウサギが飛び出す。まだ灰色である。潅木の中、登山道が凹道となっているので歩きにくい、膝下のラッセルである。汗をかかないように、ゆっくりと登る。左手の小さな池はカモ池だろう。次第に雪が深くなる。凹道では時折、太腿まで潜るので、ストックで1歩1歩足場を確認して進むが、それでも膝を越すようになる。ようやく空腹感が出てきたので、ヨーグルトを食べる。最近はヨーグルトが常食になっている。食事をしながら地図を取り出し、この先がピークの左側を通過することを確認する。今回使用した長靴は、冬期間普段の通勤で使用しているもので、膝下まであり、雪が入らない構造となっている。それでも膝を越すラッセルが続くと靴の中に雪が入ってくるので、カッパのズボンを長靴の上に履く。迷い易い箇所が出てきたので、デフ布を着け始める。風が出てきたので手袋を着ける。一部に人間が歩いたような感じがする所もあった。恐らく、数日前のトレースが部分的に残っていたのだろう。1,200m付近は平坦な尾根が続く。視界は約20m、膝下のラッセルで遅々として進まない。カンジキを持ってこなかったことが悔やまれた。潅木の葉が残っており、氷に包まれて砂糖菓子のようである。急な斜面を登り終えると、「七合目」の標識があった。ひたすらラッセル。食事を摂りながら、再び地図で地形を頭に叩き込む。「八合目」の標識は今にも埋まってしまいそうである。標識の先、左下に大きな尾根があり、眼下には真っ白な雪面がガスの中に消えている。ルートは全く分からない。もう一度、地図で確認し、デフを着けながら、斜面を緩く下り気味にトラバースする。ぶつかった沢を若干登ると、潅木の中に白い帯が伸び、誰かのデフ布が見え、一安心する。平坦な尾根となり、左手に道のようなものが伸び、その先がこんもりと盛り上がってみる。検討を付けて手で掘ってみると祠が出てきた。尾根上に上がると、鉄パイプが聳えていた。この先は潅木が雪に埋もれており、夏道が分からない。雪原のホワイトアウト、瞬間的に見えた鉄パイプを頼りに進む。何処が高いかも良く分からなくなる。風の圧力で雪が締まっているのだろう、さほど潜らなくなってきた。左手に斜面が登っているような感じがして、目を凝らしていると、小山のうえに黒いものがある。遭難の慰霊碑だろうと判断し、直進すると漸く登りになった。デフをこまめに着けるが、潅木が殆ど出ていないので、帰りは潜水艦航法(地図とコンパスだけによる無視界での歩行)を覚悟する。帰りのトレースほどあてにならないものはない。
緩傾斜になると同時に潅木のような杉が現われる。この標高で杉が自生しているとは思えない。恐らく宗教上の理由で植林されたものなのだろう。ガスの中にドーム型で鉄柱が立っている気象観測施設が浮かぶ。近づくと鉄柱に「九合目」の標識が取り付けられていた。この先に急な所はない。鞍部に下ると二本木山に向かう分岐の標識があった。ここも雪が締まっており20cm程しか潜らない。黄色いドームの二王子小屋に到着すると、後ろに鳥居のような山頂のモニュメントが見える。いったん山頂まで行き、小屋の中に入る。コンパネ11枚程度の広さである。予想通り誰もいない。ラーメンを煮る。
十分に休んで小屋を出る。登る時よりもやや明るくなってきた感じである。六合目を過ぎたトラバース斜面では、トレースが全くなくなっていたが、デフがあったので安心して進めた。雪が少なくなるにつれて足取りが軽くなる。五合目を過ぎると、頭上のブナから雪しずくが落ちてくるようになった。樹間から日本海が見える。雪の上の散乱する紅葉もおつなものである。四合目を過ぎると雪がなくなり、無事に駐車場に到着した。結局今回は誰にも会わずに山行を終えた。
今回は長靴を使用した訳だが、足が濡れないので快適であった。またプラスチックブーツと異なり雪がない所も楽に歩ける。ただし、これ以上の高度や冬期では、寒さや急斜面での堅雪に対応できないだろう。また途中、何回か携帯電話をかけようとしたが、何処でも繋がらなかった。気温の関係があるのかもしれない。

07:35駐車場(300m)→07:57一合目→08:08一本杉→08:15神子石→08:20二合目→08:30祠→08:33小屋(710m)08:42→09:01四合目(880m)→09:15五合目(994m)定高山→09:39カモ池 (1,100m)→09:49休憩(1,140m)09:55→10:03六合目(1,180m)→10:38七合目(1,260m)→10:54食事(1,310m)11:02→11:13八合目(1,350m)→11:29祠(1,350m)→11:50九合目→11:54二本木山分岐→11:38二王子小屋→11:39二王子岳(1,420m)12:58→13:20八合目→13:34七合目→13:54六合目→14:09休憩14:16→14:23五合目→14:31四合目→14:45三合目→14:56二合目→15:09一合目→15:28駐車場

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