登山者情報784号

2004年02月08日/光兎山/井上邦彦調査】

光兎山に登りたいと言い出したのはAXLである。私は過去に子供を2人連れて千刈集落から登ったことがある。その印象によると、前半は緩く広い尾根道を進むが、後半はアップダウンの繰り返しで、とても1,000mに満たない山と軽んじることはできない。インターネットで光兎山を検索しても、冬季の記録は途中から引き返しているものばかりである。
そんなある日、地形図を眺めていて、ふと光兎山々頂から北北西に一直線に伸びている尾根が目に留まった。取り付きから山頂までの距離は凡そ1.5km、登り返しのないすっきりとした尾根である。傾斜は何とかなりそうだが、問題は痩せた平坦な尾根である。両側が切れ落ちたナイフブリッジになっている可能性がある。
25,000地形図「越後下関」には田麦集落から藤沢川左岸に歩道が途中(田が途切れる所)まで描かれている。一方、「舟渡」には車道が描かれている。発行年度は舟渡が新しいので、田麦集落から尾根の取り付きまで、約1.5km砂防工事用の林道があると推測した。
小国町朝日連峰登山口の(降雪/積雪cm)を参考までに見てみると、「2月1日(18/160)、2日(0/148)、3日(1/135)、4日(30/155)、5日(51/170)、6日(33/178)、7日(45/195)、8日(52/220)、9日(60/235)」となっている。4日から9日までひたすらに雪が降り続いている。特に8日と9日は降雪量が多く、今回の山行はこの影響を受けたものとなった。
当日は横根スキー場脇のコンビニに集合し、道の駅に車を置いて出発。桂の関を過ぎた所から荒川を渡り、R290を村上に向かう。宮尾集落から右折し、中束、千刈を経て田麦集落に着く。ここで地元の方に車を置く了解を頂き、山道具を整える。
08:01スキーを履いて出発。予想通り林道が続いている。先頭はスキーを履いても約40cmのラッセルである。MDEが杉林の方が抜からないと一旦杉林に入るが、小沢などを越えるのが面倒だし、帰りのラッセルも考慮し林道に戻り、ひたすら雪の降りしきる林道を進む。
08:35沢に架かる橋を過ぎる。砂防ダムに行く道が下に分かれる。地図を確認すると両岸が狭まっている。砂防ダムは記載されていない。目指す沢はここだろうと検討をつける。さらに進み、300m08:40林道が下り始める地点から右手の杉林を登り始める。
急斜面な杉の植林地に悪戦苦闘する。09:10HZUのビンデイングが緩み、MDEに工具を借りて直す。交替を繰り返し、370m09:14ようやく杉林を突破しナラ林となる。以後は尾根を比較的順調に登るが、深雪に速度は落ちる。左手から誰かが上ってきたトレースがあり、不思議に思っているとカモシカであった。さしものカモシカもこの雪には手こずっているようだ。
09:32-47尾根上で休憩。第1回の食事とする。510m 10:12小ピークを通過する。雪崩れに気を付けながら慎重に左斜面を斜上していく。あまり気持ちの良いものではない。MDLはしきりに急な雪面をストックで叩く。こうして雪崩れの危険度を予想するとのこと。真似をしてみると、確かに雪面から20cm程度の滑り層が容易に確認できた。こういう技術は早速盗むに限る。盗むといえば、HZUのワンタッチ式スキー流れ止めは、雪が中に入って殆ど使い物にならない。仕方なく直接結んで使用する。これに対してAXLの流れ止めは極細のロープに小さなカラビナを付けていた。これは、下山後にホームセンターで購入し、次回から使用している。
570m 10:42、小ピークから尾根は左へ曲がっている。MDEは雪庇にもストックを突き刺したり叩いたりして、雪庇の状況を調べながら進む。空腹のため1人でお握りを頬張り610m 11:01小ピークを越えると3人が休憩していた。マツの間を進む。尾根は広く右に曲がる。679m峰を越えて右から尾根を合わせる。740m 11:30-40小ピーク食事を摂る。本日中に登りきれるのか、計算が始まる。14:30を最終下山時間と決める。
痩せた尾根、硬い雪の上に新雪がそっと乗っている。雪庇の方向は右に左にと変化する。先頭のAXLもかなり苦労している。735m12:26MDEが、これ以上のスキーは無理と提案。各自スキーをデポしてワカンジキに履き替える。茸状の雪が嫌らしい。AXLにMDEが後ろからルートを指示する。
ようやく悪場を通過するとブナの霧氷が出てくる。西から合流する尾根が分からない。ただひたすら高みを目指す。850mから上はホワイトアウトの状態である。ここが山頂かと思っていると、微かに前方に高い山が見えてくる。
966m14:07-10ようやく山頂に到着する。騙されないように慎重に周囲を観察し、紛れもなくここが山頂だと確信する。摂動を掘る閑もラーメンを作る時間もない。直ちに下山を開始する。トレースは忽ちに消えていく。900mから800mに掛けては、かなり分かりにくい個所が連続する。デフを殆ど付けなかったので、4人が散会して下り、微かに残るトレースの凹凸を探す。
14:43まもなくスキーデポ地点、嫌な茸雪状のナイフリッジを下る。先行のAXLが突然姿を消したのを私は確認していない。ただ音もなく自分の体が空中に放り出された。EHJが斜面を落ちて行くのが見えた。止めなければと気が急くが、自分の体は空中なのか急斜面を落ちているのか分からないが、コントロールが全く効かない。ようやく両手が雪面に触れたので、直接雪面に差し込もうとするが硬い雪で跳ね返される。片手が何かに触れた。木の枝のようだ、無意識にそのまましがみつく。小さな松ノ木を軸にして、私の体が大きく触れて、止まった。結構な急斜面である。見上げると、EHJも何とか自力で止まったようだ。斜面を登っていくと、垂直な硬い雪壁がそそり立っている。硬いナイフリッジに茸状に積もった新雪が一気に崩落したらしい。自力では上がりきれないのでMDEとAXLに手伝ってもらい尾根上に這いずり上がる。聞けば、始めにAXLが雪庇崩壊で転落し、直後にEHJとHZUの乗っていた雪庇も崩壊したとのことである。
14:55悪場を過ぎ、デポ地点でスキーを履く。
トレース探しながら慎重に下るが、AXLとMDEのスキーにはとてもついて行けない。HZAは転倒を繰り返しながら下る。スキー上級者であるEHJが最後尾である。彼は登山靴で滑るのが初めてとのことで、思うに任せないスキーに苛立っている。平然とMDEは「基本をどおりに、きちんとスキーに乗っていないからだ」というが、蛇シールを付け、踵を開放したまま狭い藪尾根をリズム的に滑っていく二人には呆れるのみである。
15:40-45休憩、シールを外す。あとはAXLとMDEの独壇場である。とても写真を撮るどころではない。腹がすいた足に力が入らない。最後は杉林を避けて尾根筋を下る。沢沿いのトラバースで転倒した時にHZUのストックのリングが消えていた。何とか立ち上がって探すが、分からない。以後HZUは1本ストックとなった。
17:06-17ようやく林道に出る。トレースには既に雪が20cmは積もっており、先頭はトレースを歩いているのにラッセルとなった。それにしても最後尾になると、これは極楽である。
暗くなり始めた17:40田麦集落に到着。車のルームライトで装備を外し、疲れきった体で帰宅した。

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