登山者情報939号

【2005年07月30-31日/針生平〜大朝日岳/井上邦彦調査】

今回は、巡視員として朝日庄内森林環境保全ふれあいセンター主催の「朝日山地森林生態系保護地域合同パトロール」に参加した。パトロールは@大鳥池、A古寺〜大朝日岳、B針生平〜平岩山、C針生平〜大朝日岳、D朝日川〜黒俣沢の5コースに分かれて実施され、Cのみ宿泊で他は日帰りである。
私達はCHZU(小国の自然を守る会)・菊池(東北森林管理局)・伊藤(ふれあいセンター)の3名と、B小林(置賜森林管理署長)・小林(置賜森林管理署)・山口(同)の3名、計6名で平岩山を目指した。
徳網を過ぎると砂利道になる。車の前を小動物が横切る。尾の先だけが真っ白で印象的、ニホンリスである。
06:00針生平駐車場に着くと、メンバーは既に到着していた。準備をしていると続々と車がやってくる。今日は北部中学校の祝瓶登山である。飯豊連峰でも小玉川小中学校が石転ビ沢〜梶川尾根登山を行うことになっている。
06:17駐車場を出発する。大石橋を渡り、小林署長は足が達者である。話をしながら歩いていると、いつの間にか後ろの方が見えなくなってしまう。迷いやすかった祝瓶山分岐も、ルート変更後に道がこなれてきている。スズイデのV字吊橋を渡り、白布平のブナ林に入る。ここから暫くの間も本流沿いに道が変わっている。白布沢を飛び石伝いに渡り、再びブナ林を進み、下ると角楢のV字吊橋である。吊橋の一部が真新しい杉の丸太に変わっている。長い杉の丸太をここまで運ぶのは容易でなかっただろう。
06:59-07:10角楢小屋に到着するとブルーシートで屋根ができ、テーブルが置かれている。山口さん達が登山道整備に来ているのだ。留守番のお二人に情報を聞く。・・・{山さんのホームページ}参照
小屋からさらに続くブナ林。これだけ長い間ブナ林を歩くコースはなかなかあるものではなかろう。07:40-45大玉沢のV字吊橋は以前に比べて高く位置に架けられている。荷物を置き、若干下った水場で水筒を満たす。
尾根に取り付くと急登が続く、すぐ後ろの小林署長が強いのでどうしても後ろと差が出てしまう。署長と会話をしながら登り続け、08:26-09:10船窪地形のある小峰で休憩を取り、始めての食事とする。
09:36「蛇引清水」の看板がある。ここから左手に下ると蛇引清水になる。昔は下からトラバースして清水の近くまで行き、分岐から斜上して尾根に戻るコースもあったが、取り付きが崩れたため、廃道になっている。大きなブナが潅木に替わると程なく平坦で細い尾根になる。この細い尾根には大きいブナがないので、私は便宜上「森林限界」と呼んでいる。
祝瓶山を登っている戸田さんから無線が入った。既に8割が山頂に到達しているが、祝瓶山(イワイガメヤマ)の名前の由来を教えて欲しいと言う。私はあくまでも一つの説に過ぎないと前置きして、「長井方面から見ると岩肌の厳しい山である。昔ここで修行をした僧侶(山伏)がいた。その僧侶が住んだ岩の家(イワエ)から来たものではないだろうか」と答えた。
さらに進んで10:04-11:02両側が切れた箇所で休憩を取り、食事とする。元気を取り戻して稜線への登りに取り掛かる。山口グループの2名が道刈りをしていた。
左のブナ林端を登りきって、11:25-30北大玉分岐に到着する。ここからは主稜線になる。道脇にはオオコメツツジが咲いている。現在山形県がモニタリングを行っている箇所はテープなどで派手に装飾されていた。
OTJ・GZKと無線が通じた。今日は梶川出合で渡渉をしていた女性(単独)がバランスを崩し転倒して頭から出血したが、居合わせたMDEが応急処置を行い、下山させたとのことであった。今年は山のトラブルが多すぎる。
12:13-35平岩清水分岐にザックを置いて水汲みに行く。水場手前に草で覆われた落とし穴があり、私ともう一人が滑る。水は豊富であり、顔を洗ってさっぱりとする。平岩山々頂を経由しないトラバースコースは、すっかり廃道になり藪で覆われていた。
13:00-25平岩山の標柱に到着と同時に雨が降ってきた。慌ててカッパを着る。署長はガスストーブでラーメンを煮る。缶ビールをご馳走になり、ここで3人と別れる。
この先は鉄製の柱が点在しており、視界がない時の目印になっているが、倒れている物が多く、一つ一つ起こして石で固定していく。周氷河地形独特の棚田状の砂礫地とお花畑が広がる。特に季節外れのハクサンイチゲの多さに眼を奪われた。他にはミヤマリンドウ(盛)・タカネマツムシソウ・ミヤマアキノキリンソウ・ヒナウスユキソウ(終)・コキンレイカ・シラネニンジン・イワテトウキ・オトギリソウ・ヒメシャジン・ムカゴトラノオ・ミヤマダイコンソウ(終)・ハクサンシャクナゲ・マルバシモツケ・ミヤマホツツジが咲いていた。
雨も何時しか止み、カッパを脱いで登るが、ここは騙しの連続である。むしろ視界のないのが幸いである。鉄柱を直しながらゆっくりと高度を上げていく。登山道が草(高山植物)に覆われ足を置くのが躊躇われる所も何箇所かあった。
突然、光が差し明るくなった。激しい雲の流れの合間に青空も見えた。木柱がある、間もなく山頂である。
14:47-51大朝日岳山頂に到着、3人で握手を交わし、三角点にカメラを置いて記念撮影をした。天候はぐんぐんと回復しつつある。小屋に向けて下る。呼び止められて振り返ると祝瓶山が瞬間的に姿を現した。ヨツバシオガマ・ヤマハハコ・ミヤマコウゾリナが咲く中を15:05今日の目的地である大朝日小屋に到着した。
管理人の大場さんは不在であり、2階は大勢の登山者で溢れていた。私達は1階の奥に陣取ることとした。ここでなんと、京都府山岳連盟遭難対策委員長の宮永さんと偶然再会した。彼は大鳥池から縦走してきていたのである。
私達はさっそく金玉水へ水汲みに行くこととした。時折視界が開ける。トラロープが張られ、砂防ダムのような板塀の登山道を下る。ミヤマリンドウの多さに驚く。今回通ったコース上(平岩山〜大朝日岳)では乾燥した場所でも沢山のミヤマリンドウが咲いていた。飯豊連峰ではイイデリンドウは乾燥地、ミヤマリンドウは湿性地、中間のところでは混生している。イイデリンドウがない分、ミヤマリンドウの生育地が広くなっているのかも知れない。
花の名前を尋ねられ、何気なく「チシマギキョウ」と答えると、登って来た登山者が「イワギキョウ!花に毛があるのがチシマギキョウ、毛がないのがイワギキョウ」と訂正をしてくれた。「その通り」と答えたが、あいにく眼鏡のない私には毛があるかどうか分からない。取りあえず写真を撮って下山後に確認することとした(注:私は飯豊連峰ではイワギキョウを確認したことがない)。
鞍部で縦走路から外れる所には標柱が立っていた。トラロープに導かれて右に下ると、清水が出ていた。ここで水を汲みながら周囲を観察すると、一面のヒナザクラが咲いている所には木杭が見られ、植生復元地であることが分かった。また清水からの流れによる侵食を防ぐために、沢には石が敷き詰められていた。ただ、途中の小沢は数mの深さで痛々しく掘り込まれ、以前の天狗ノ庭を彷彿させた。イワイチョウ・イワカガミ・コバイケイソウ・ハクサンボウフウ・チングルマ・ヨツバシオガマ・ニッコウキスゲを眺めながら大朝日小屋に戻った。
道刈りをして来たという管理人の大場さん、助手の佐藤さんが小屋に戻ってきた。取りあえずは乾杯。何時しか宮永パーティも加え、楽しい山の晩餐会となった。
翌31日は、登山者の賑やかさで起床。餅いりラーメンに昨日の残り(焼肉)を入れ、塵を出さないように全て食べ尽くす。
05:43大朝日小屋発、昨日とは打って変わった好天である。05:53-06:01大朝日岳山頂で北は以東岳から皆は祝瓶山まで一望する。3名とも体調はまずまず、06:55平岩山で小休止。ODD・GZKと無線が通じる。ODDはダイグラ尾根を下山している、GCSは昨日、学校登山を中止し、今日皆で石転ビノ出合を目指しているとのことである。07:18平岩清水分岐を通過、木本植物に弱い私は菊池さんに潅木の中に生えているネズコ(=クロベと思われる)を教わった。ネズコは葉の裏表にあまり差がないのが特徴で、ヒノキは葉の鱗の形で見分けるとのことであった。
07:41-53北大玉山々頂で一息を入れてここからは下り一方となる。08:02北大玉分岐で主稜線と分かれる。風がなく日陰が恋しく、ブナ林に入るとほっとする。08:41-53蛇引清水で休んでいると、XXNと何名かの登山者が登って来た。XXNは道刈りとのこと、XXNに指摘され頭上を見上げると、大きなブナの枝が折れ、別のブナに寄りかかって微妙なバランスを保っている。風のある日はここで休まないのが無難である。
大玉沢直前で高校生パーティにすれ違う。引率は県岳連の仲間だ。今日の目的地は大朝日小屋とのこと。「この暑さの中、これから登り切るのは大変だな」と声を掛け別れる。09:50-10:00大玉沢吊橋を渡り終えて水場で喉を潤す。
あとは快適なブナ林を歩くだけである。10:41-11:00角楢小屋で昨日道刈りをしていた方に再会し休憩していると、彼らの中心人物である山口さんがやってきた。コーヒー等をご馳走になりながら、暫し情報交換。11:48針生平の駐車場に到着し、二人と別れ帰宅した。
帰宅途中、ザックの中の無線機から「梶川尾根の局長さん、誰かいませんか?」梅花皮小屋OTJの声が聞こえてきた。嫌な予感を抱えながら車を走らせた。
=以下次号に続く=

今回のコース
大朝日小屋から金玉水

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