登山者情報887号

【2005年03月02-04日/山形県山岳遭難対策委員会救助訓練/井上邦彦調査】

午前中は菅野講師からコンパスの使用方法について講義を受ける。内容は、地形図にあらかじめ磁北線を記入しておき、現在地から目的地に至るようにコンパスの長辺を合わせ、コンパス中心部の円を回して円の中の線が磁北線と平行になるようセットする。あとは地図をポケット等に収納し、コンパス中心部の円が指す北に磁針が来るように体を回転させ、コンパス本体が指す方向に進むと、目的地に行けるという方法である。勿論途中には障害物があるので、進行方向に何らかの目的物を見つけ、その目的物まではコンパスなしで進む、目的物で再びコンパスを出して次の目的部を探すのである。目的物が見つからない場合は、コンパスを信じてそのまま進めば良い。
今回は1班11名の4班編成。1班と2班は山形県警察山岳救助隊隊員によって構成され、1班講師は井上邦彦、2班講師は高貝喜久雄とした。3班は陸上自衛隊第6師団を中心とし吉田岳が講師、4班は県内の各地区遭難対策委員会からの参加者で講師は菅野享一が務めた。また総合講師は山形県警察山岳救助隊副隊長の仁科友夫である。したがって、講師は全員が小国山岳会員ということになる。
講義に続いて、各班毎に基本的な装備の使用法を確認する。1班はまず輪カンジキの装着方法、様々な輪カンジキが集まり、中には私が始めて見るものもあった。ロープワークはエイトノット・クローブヒッチ・プルージックの3種類に留めた。殆どの班員は問題ないが、一部にマスターしていない者がいたが、班員同士で教えあうこととした。
昼食を終えると、外に出て輪カンジキを履き、リフト脇の雑木林を通り青い鳥ゲレンデに向かった。程よく新雪があり、基本のラッセルについて確認する。
貸し切りにした青い鳥ゲレンデで、ピッケルによるカッティングしてザックを置き、ボクシングスタイルで滑落停止の基本を復習する。新雪のため滑落しないので、ピッケルを持たせて前転や後転による滑落停止を繰り返し、斜度に対する恐怖感を取り除く。続いてスノーバーやスノーブレードを利用したグリップビレイを確認し、スタンディングアクスビレイまで行う。大阪方式コンテミュニアスは時間の関係で、やり方を指導する程度に留めた。
翌3日は、リフトで登り、1班はリフト終点地から大きく南にずれる。ここでGPSとマップポインターを用い現在地を特定する。全員コンパスを刈田岳山頂にセットする。この先は、先頭を交替しながらコンパスを頼りに刈田岳を目指す。ちょうど樹氷が視界をさえぎり傾斜も殆どなく、コンパス訓練には絶好である。時折、樹氷の根元で穴に落ち込む。
右側に一段低い平坦地が広がる。この雪原を何者かが走り回っている。色は薄茶、背を曲げて飛び跳ね、樹氷に隠れながら進む。全長は1mもあろうというテンである。カメラで撮影しようとしたがタイミングとピントが甘く、殆ど写っていなかった。
一行は一度雪庇を下り、再度登る。御田避難小屋の東付近で、右手から小沢が入ってきた。ここで小沢を巻いたため北側にずれ込んでいる。結局、この時のズレがそのまま刈田岳山頂まで尾を引くことになる。
仁科講師と事務局の樋口さんがリフト付近に見えた。彼らはそのまま登って行く。1班もコンパスを頼りに急斜面に取り掛かる。ガスが濃くなり視界が閉ざされ、傾斜もなくなり何処を歩いているのか分からなくなるが、それでもコンパスを頼りにひたすら歩く。
右手に薄っすらと巨大な物が見えた。念のため近づいてみると建物であった。ここで山頂のやや北に出たことが分かった。ここから急な登りを詰めると、山頂の神社に到着した。先に4班が建物の陰に休憩しており、入れ違いに休憩とする。
山頂で馬ノ背にコンパスを合わせ、下山を開始する。視界は10m程度だが、指導柱が連続して立っており迷う心配はない。気温はマイナス13℃、風があり寒く感じる。下りきった所で、コンパスを仙人沢右又沢に合わせる。僅かに下ると沢に入る。ここで読図を行い沢の左岸に上がり、コンパスの指示に従い斜面を横切るように進む。視界が閉ざされ、皆真剣である。
緩やかで広い斜面をひたすら下ると沢に出た。雪崩の心配はないと判断して沢の中を下る。沢中は吹き溜まりになっており、ラッセルがきつくなる。ここで2回目の休憩とし、立ったまま食事を摂る。
さらに沢を下る地形図では両岸が露岩記号となっているが、思ったほどのことはない。適当な訓練場所を探して下っているうちに、足元に大きな滝が現れた。懸垂下降をするにもダブルでは厳しい高さである。さらに滝の下流は川が埋まっていない。無理をせずに左岸を巻いて平坦部に出る。
無線で他の班の状況を確認すると、1班が先頭のようである。リフト終点に出て、リフトの脇を下り、青い鳥コースから仙人沢に下る。
20m強の崖で吊り上げと吊り下げ訓練を行う。講師は場所と方法を口頭で指示するだけで、全てのセットは受講者が行った。危険な行為は訂正させたが、殆ど自分達だけで行うことができた。
時間を見計らってゲレンデまで登り返し、各班が集合した所で井上講師からアバランチビーコンの使用法を説明し、模範実技を行う。その後は各班対抗で隠したビーコンを競争で探した。
宿舎に戻り、一風呂浴びて懇親会となる。各班毎の出し物に腹を抱えて楽しい一時を過ごした。
最終日は、再び青い鳥コース経由で仙人沢に架かる大橋を目指す。途中のブナ林には数日前に埋めておいたダミーが眠っている。これをプローブで突き刺して探す。ダミーが見つかったら、その穴に受講者を生き埋めにしてみる。雪の中でも会話ができることを確認し、プローブで刺して人間の感触を覚える。
次は搬送訓練である。1班にはそこにプラスチックの滑り板を取り付けたエアーストレッチャーが渡された。1名が遭難者に扮してストレッチャーに乗り、樹木から支点を取って8環やグリップビレイで確保しながら仙人沢に下る。
仙人沢では3班が人間を背負った状態での吊り上げ吊り下げの訓練を行っていた。次官の関係上、1班は負傷者役を交代し、ストレッチャーで急坂を登る。始めは滑車1個で単純に引っ張っていたが、急斜面になると動かない。講師は黙って見ている。受講者が勝手に滑車とユマールを組み合わせて工夫を始めた。しかし、プラスチックが雪の抵抗で剥がれ切れ始めた。
何とか急斜面をクリアすると、次は横断となる。何処に支点を取るか、見ているとぎこちないものの、遊んでいる班員はいない。皆一生懸命である。
搬送訓練はゲレンデに出たところで終了。宿舎に戻り、昼食後に閉講式を行い、解散となった。

今回のコース
拡大図

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