登山者情報1,393号

【2010年10月02-03日/梶川尾根〜丸森尾根(飯豊連峰合同保全事業)/井上邦彦調査】

 05:10天狗平に到着すると、前泊の皆さんが朝食中であった。その後、続々と参加者が終結して行く。06:00LFDの司会で挨拶と作業目的の説明、さらには湯沢峰の下にあるというオオスズメバチの巣について注意事項があった。
 06:24記念撮影の後、先頭がロッジを出発する。07:05-12人数が多いため、楢ノ木曲で順次休憩を取る。私は蜂の巣対策のため先頭を行く。ODDと無線で連絡を取り、根に黄色のテープが結ばれている場所を見つける。ここで蜂を探すが見当たらない。後続に注意するよう伝言して通過する。結局は杞憂に終わったようだ。
 07:47湯沢峰の肩に出て、07:58-12湯沢峰で食事とする。青空のもと、主稜線がまばゆく連なっている。08:48-50滝見場から石転ビ沢を覗くと、雪渓はホン石転ビ沢出合下流に僅か残っている程度である。この辺りから灌木が色づき始める。ひと汗をかいて、09:15-38五郎清水で二回目の食事を取る。三本樺から眺める紅葉が美しい。
 10:13トットバノカッチで旧道に入り広場に集合する。ここからが今回の作業地である。まず旧道と新道を一回りして現状を観察する。以前に施工シタチジマザサが旧道の底から露出している。随分と耐久性があるものだと思う。旧道は全体的に安定していると思うが、やはり一部には浸食を感じる。やはり初期の施工個所には物足りないものがある。竹藪に切り開かれた新道は概ね黒い土に覆われているが、下部の方に赤土が見える所もある。
 このまま新道を使い続けると、竹の根が弱り表土が流出し、浸食が一気に進む可能性があるので、数年間通行止めにして養生をさせたい。チシマザサは大変生命力の強い植物なので、根を張らせることによって登山道を強化することができる。そのために旧道を使おうというのが今回の試みである。
 主要メンバーの到着を待ち、一緒に確認した結果、旧道は「浸食は収まり植物が根付き始めているが、まだ完全に安定した状態に至っているとは言えない。浸食が深い場所は道の脇を歩くことになるが、その部分が痛む可能性があるのでこれを最小限に留めたい。結論として、登山道を旧道に戻すことはせず、今回石と土嚢でダムを作り、土砂を堆積させた上で3年程度に限って登山者を通すことは問題がない」と判断した。
 今回施工した梶川尾根における保全作業箇所は、@標高1,620m通称トットバノカッチ(トットバ沢源頭)、A標高1,650m旧道新道合流点の上、B標高1,720mケルン下部(フキアゲ沢源頭)、C標高1,780m大規模裸地の4箇所である。

これまでの施工記録 1,620m 1,650m 1,720m 1,780m
03年10月26日(第764号)  
06年10月10日(第1,048号      
07年09月24日(第1,114号)      
08年08月29-01日(第1,188号)    
09年09月06-07日(第1,279号)    
09年09月19日(第1,282号)      
10年10月02日(第1,393号)  ○

 1,620mの施工個所(トットバノカッチ)は周囲にダケカンバが散在する亜高山帯であるが、遅くまで残雪に覆われるため草原となっており、高山植物が生育している。以前はここに登山道が通っていたため、複線化すると共に登山者の踏圧により浸食が顕著に進行していた。また登山シーズンとなっても登山道が埋もれており、下降する場合は道迷い事故や滑落事故が多発している。このため、2003年7月に尾根沿いのチシマザサ群落の中に新道を開設がなされた。その後、数回に渡って旧道の保全作業がなされている。
 旧道と新道が合流した場所から上は、昨年に応急処置を施した所である。一定の効果が認められるものの、まだ不完全であることから、土嚢を使ったダムを築いた。その上部についても順次、土嚢などによるダムを作った。
 1,720m(フキアゲ沢源頭部・ケルン下)は土砂の堆積が順調であり、施工前とは見違えるようになっていた。このまま推移すれば、登山道を浸食地に戻すことも可能となるかもしれない。
 梶川尾根最大の課題である1,780mで全員が揃った。急傾斜地に作られたダムは理想的な形で土砂を堆積させており、登山道の固定もうまく行っていた。課題として、下部の緑化ネットが土壌と一体化してきており、せっかく芽吹いた植物が踏圧を受ける恐れが出てきた。また施工地の下に広がっている裸地が残っているので、一箇所は以前のネットを覆うように、もう一箇所は新しい場所にネットを貼った。
 また菊池氏の助言により、ネットの上に石を並べ、微地形の変化を試みることとした。具体的には約10〜20cmの石をネットの上に置くことで、飛散してきた種を補足する。日陰を作ることにより乾燥を防ぎ発芽を促進させる。石の風下に小さな吹き溜まりを作り雪の保温効果で霜柱による土砂の動きを抑制することを期待してみた。
 これらの作業を終えて、当日は門内小屋に宿泊した。小屋では大いに盛り上がったことは言うまでもない。
 翌日は、丸森尾根丸森峰上の裸地に集合。1班は昨年施工した箇所の手直しや追加のダムを作成した。もう1班は、丸森峰から大崩壊地の上までの間、事前に印を付けた支障木の枝払い等を行った。残ったメンバーは、さらに幾つかに分かれ、支障木を適当な長さに切り、それを材料にして侵食地にダムを作る作業に従事した。
 異常の全てを終了し、全員無事に下山したが、この後に天狗平ロッジで後夜祭を実施したつわもの達がいたということである。

出発前の記念撮影
梶川尾根の急登
みなさん元気です
立ち止まって撮影会
ターゲットはこの紅葉
湯沢峰でひと休み
主稜線が見えました
朝日連峰も迎えてくれました
左から、枯松山・大境山・光兎山
滝見場に到着
さっそく展望地へ行きました
石転ビ沢の様子
色づき始めました
三本カンバを見上げます
飯豊山と駒形山
こぼれる笑顔
倉手山を見下ろす
ムシカリと三本カンバ
吾妻連峰
ここも急登です
三本カンバに到着
石転ビ沢上部
見上げる主稜
最初の施工地、トットバノカッチです
旧道の様子
新道の様子、まもなく侵食が始まるでしょう

続く ⇒